この作品は2011/03/11東日本大震災チャリティ電子書籍企画『プロジェクトうりゃま 〜ラブ&ハッピー〜 夏』に掲載されていた作品の再掲載となります。

このコンテンツはR18相当の描写を含みます。18歳未満の方、苦手な方は閲覧をご遠慮ください。



 夜空の下、闇色のカーテンが降りた山の木々の合間から、扇状に広がる街の明かりは、まるでおとぎ話に出てくる海賊がやっとの思いで見つけた財宝のように神秘的な輝きで見るものを圧倒する。
 夜景を見たいと言い出したのは結花だ。
「それで学校辞めるの?」
 ここから見る夜景は他の場所とは少し違うな、と思いながら結花は運転席を見た。
「それが厳重注意ということで、辞表は返されてしまいました」
 秀人はプッと笑う。
「残念だったね」
「私は真剣に考えて、自分でやらかしたことに責任を取ろうと思ったんです!」
 またプッと笑う声がした。
「つまり結花は教員を辞める覚悟で、俺との愛を貫こうと思ったんだな」
「えっ、あ、いや……そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて、どういうこと?」
 結花は必死で反論しようと思ったが、考えれば考えるほど頭の中はぐちゃぐちゃになり、秀人の意見が正しいような気がしてくる。



「い……、いけないことですか!?」



 秀人はフッと笑うと、結花の肩に手を回し、身体ごと自分のほうへ引き寄せた。そしてきつく抱き締めながら、結花の唇を探す。昼間は軽く互いの唇を重ねただけだったが、今度は秀人の舌が結花の唇を割って侵入してきた。
 おずおずとその舌に自分のものを絡めると、秀人は更に深く結花の口内を這う。くすぐったいような感覚が、次第にうっとりするような感覚にすり替わり、唇が離れると思わず甘い吐息が漏れた。



「会いたかった、ずっと……」
「私もです」
「ひとりで『寂しくない』って顔してる結花が、あの夜からずっと俺の心に棲みついてるんだ」



(……ヒデさん!)
 言葉にならない想いが次から次へと溢れ出てくる。秀人の温かい胸に自分の頬を擦りつけて、秀人の感触を確かめた。
「俺の仕事のことを理解してほしいけど、やっぱり朝いなくなってる男なんて嫌じゃない?」
 ひどく慎重に訊ねてくる秀人がかわいい。
 結花はクスクス笑って、自分から秀人にキスをした。



「じゃあ、帰ってきたらその分かわいがってください」
「勿論」



 それなら安心して彼の腕の中で目を閉じることができる。
 フロントガラス越しの夜景をぼんやり眺めながら、結花はにっこりと微笑んだ。秀人の心に棲む結花がどんな顔をしているのか見ることはできないが、せめて彼の目に映る自分は笑っていたい。
 それからゆっくりとまぶたを閉じる。やっとの思いで見つけた宝物を大事にしまうように――。


◇ END ◇