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第三部 2

 本社に戻ってからランチをどうするか、というのが沙希にとって毎日のちょっとした悩みになっている。

 陸がいるとわかっていれば一緒に昼食をとろうと思うのだが、陸は外出することも多い。昼までに帰ってくるのかがわからず迷っているうちに、結局お昼は一人寂しく食べることになったりする。

 だから最近は朝から陸に予定を聞いて、午前のうちに外出するようであれば、同僚の宮川房代に連絡して一緒にランチをとる約束をしている。房代も事情を理解し、いつも沙希との約束を優先してくれた。

 そして今日は陸が終日外出予定になっているので、房代とランチを一緒にすることにした。行き先はいつも二人でよく行く洋食店だ。

 房代は席に腰を下ろすと、満面の笑みを浮かべて「見て、見て!」と持っていたポーチから写真の束を取り出した。

「うわぁ! 素敵!」

 受け取った写真には白いドレスを着た房代が写っている。丁寧に一枚ずつ見ていくと、白だけでなく、ピンクや黄色などのカラードレス姿の写真もある。

「お色直しは何回?」

「やっぱり一回かな。本当は和服にも憧れるけど、でも大変でしょ。披露宴の前に教会で式があるから、そのまま移動して……」

 房代は考え事に集中してしまったのか、そこで言葉は途切れた。そんな親友の様子を見て沙希は微笑む。

「いいなぁ。房代ちゃんは濃い色のドレスも大人っぽくて似合うね」

 写真は三十枚近くある。同じドレスを別角度で撮ったものもあるが、それにしても十着以上は試着しているようだ。沙希は陸の祖母に連れられて行ったブランド店での試着を思い出す。

「どれも素敵で本当に迷うよ。それにもう少ししたら新作が入ってくるって言うから、また行かなくちゃ!」

 房代は興奮気味に言った。

 彼女はテニススクールで出会った男性と順調に交際を続け、ついに結婚することになったのだ。結婚式はもう二ヶ月後に迫っている。準備も慌しくなっているはずだが、房代は幸せオーラを纏い、表情もいきいきとしていて、本当に楽しそうだ。

「いいなぁ」

 沙希が無意識にそう口走ると、房代は不思議そうに沙希を見返す。

「沙希ちゃんもまだ新婚でしょ! 今が一番幸せなときじゃない?」

「幸せだけど、式とかしてないし」

 つい本音が漏れた。結局自分はわがままなのだ、と沙希は言ってから思った。

 テーブルの上に広げた写真を片付けながら、房代が寂しそうに言う。

「そうだね。私なんかより沙希ちゃんのほうが絶対ウエディングドレス似合うと思う」

「いや、そうじゃなくて……」

 胸の中にあるもやもやしたものを何と表現すればよいのか、沙希にもよくわからない。ウエディングドレスや結婚式への憧れだけで、こんな不満を抱えるのは自分らしくないと思うのだ。

(とすれば、やっぱりあの一言かな)

 代表者会議後の会食の場で、陸の祖父に言われた言葉が沙希の心に重くのしかかっていた。

(結婚は家同士の問題――か)

 だが入籍後も取り立てて沙希と陸を引き離すような処遇はない。潤也の部下に命じられたのは嬉しくない出来事の一つだったが、部署は陸と同じフロアで、これはむしろ二人に配慮した人事のようにも見えた。

 だからこそ沙希の胸に立ち込める靄はますます濃くなるのだ。

「ごめんね、私が先にウエディングドレス着ちゃって」

 房代の申し訳なさそうな声に、沙希はハッとした。

「そんなふうに思わないでよ。ハッピーでこんないいこと他にないじゃない! 私も心から嬉しいよ!」

 テーブルから身を乗り出す勢いで熱く語ると、房代の目が潤む。

「ありがとう」

 それから二人で「いただきます」と手を合わせ、ようやくランチを口にした。

 沙希の側にある問題は、幸か不幸か、まだはっきりとした形を成していない。いつどんな形でそれが目の前に現れるのか、想像することも沙希には難しい。

(考えても仕方ないんだけどね)

 それならば何も考えずにいられたらいいのに、それがどうしてもできない性格だ。 

 向かい側に座る親友の顔を見ながら沙希は、自分はどうあれ、花嫁になる彼女の晴れの日を心の底から祝福したいと思った。


     


 午前中に訪問した企業での商談が少し長引き、陸と長谷川が社用車に乗り込んだときには、時計は既に午後一時を回っていた。

「昼飯どうする? ……ってか、次、どこだった?」

 助手席に座った陸は何気なく運転席の長谷川を見る。長谷川は基本的に穏やかな表情しか見せない人間だが、このときは何かひどく思い詰めたような表情をしていた。

「長谷川さん?」

 さすがに気になり、運転席を覗き込む。

 長谷川は無言で車のエンジンをかけ、シフトレバーを動かした。

「次はD自動車の幹部がお待ちです。急ぎますのでシートベルトを装着してください」

 呼吸が一瞬止まる。

 長谷川をきつく睨むが、彼は任務を遂行するのが第一で、陸の顔色を窺う気などないようだ。すぐに諦めて陸もシートベルトを装着する。



(嵌められた……!)



 唇を噛んで苛立ちをこらえる。

 陸の記憶ではスケジュールにD自動車との商談など入っていない。それどころか、これまでK社はD自動車との取引がないに等しい状態だ。

(今まで不気味なくらい何もなかったのは、今日の日のためか!)

 悔しいが長谷川に怒りをぶつけたところでどうにもならない。それでも何か言わなければ気が済まなかった。

「長谷川さんは誰の味方? 俺じゃないってことはよくわかったけど、坂上譲一でもないんだ?」

 信号で止まると、長谷川はようやく陸を見た。

「このお話は坂上前社長の指示ですよ」

「はぁ!?」

「そして、浅野さんに伝言です」

「何?」

「『決して彼女を川島さんに会わせるな』と」

 そんなことはわかっている、と叫びそうになった陸を長谷川は鋭い視線で制した。

「今夜とある有名ブランドの日本初上陸記念パーティーが開催されるのをご存知ですか?」

「知らねぇよ」

 陸は吐き捨てるように言う。

「浅野さんにも出てもらいます」

「冗談じゃねぇ! 誰が行くかよ」

 荒れる陸の横で、長谷川はますます冷静な声を出した。

「潤也さんが川島さんをパーティーにエスコートしますが、それでも『行かない』と言えますか?」

 想定しない事柄が次々と長谷川の口から発せられ、陸は茫然とした。

「なにそれ? 俺と沙希はアンタらのおもちゃかよ」

 苦し紛れにつぶやくと、長谷川は小さく嘆息を漏らした。それから急に車を路側帯に寄せて停車し、ハザードランプを点灯させる。

 長谷川は陸のほうを向いて「もうすぐ到着しますが、その前に一言宜しいですか?」と改まって切り出した。

「浅野さん。川島さんを物理的に幸せにすることができる人はあなた以外にもいるでしょう。ですが、彼女の心を幸せにできるのは金でも名誉でもなく、浅野さん、あなた一人です」

 真摯に語る長谷川の言葉が心に響き、尖っていた気持ちが次第に凪いでゆく。

「私は器用そうに見えて、実はとても不器用なある同期のことが入社以来ずっと気になっていました。彼女はライバルでもありながら、異性としても非常に魅力的な女性でした。私欲やずるさとは無縁で、自分が納得して選んだ道であれば、彼女はきっとどんなに辛くとも逃げ出したりはしない」

 次々に追い越していく車を目で追いながら、沙希が自分で選んだ道を歩き始めた日のことを思い出す。

 どうしてあのとき気がつかなかったのだろう。もう何度目かもわからない後悔を、陸は奥歯で噛み締めた。

 考えてみれば当然のことだった。そんな沙希だから好きになったのだ。

(コイツも、おっさんも、沙希のことをちゃんと理解しているっていうのに……)

「わかってる」

 陸が悔しさを押し殺して言うと、隣で小さく頷くのが見えた。

「彼女のそういうところにつけ入ろうとする輩がいます。敵の嗅覚は鋭い。そしてやり方はあざとく、狡猾です」

「へぇ」

 長谷川は非難するような鋭い視線を送ってくる。それを陸は正面から受け止めた。

「つまりアンタは沙希の味方なんだな」

「好きなように受け取ってください。ただ、一人で立ち向かおうとするのは利口ではない」

 言い終えると、長谷川はハザードランプを消し、ウィンカーを上げて車を発進させた。

「長谷川さんは仕事で指図されたことしかしないタイプだと思ってたけど」

 シートに背中を預けると陸は腕を組む。鼻で笑う声が運転席から聞こえた。

「実はお節介なんですよ。それに……」

 車は大きなホテルの玄関前に入る。速度を落としながら長谷川は素早く言った。

「僕なりに損得を計算していますから、損をする仕事は引き受けませんよ」

「なるほど」

 停車すると同時に助手席のドアが開けられた。ホテルの職員が礼儀正しく頭を下げる中、陸は無言で車を降り、誘導されるままホテル内へと進んだ。





 想像通り、ホテル内の日本料理店は貸切の立て札が出ていた。一般の客席の間を通り、奥の個室に案内される。開いたドアの向こう側を一瞥して、陸はため息をついた。

「陸、遅かったじゃないか」

 上機嫌な祖父の声がした。こちらを振り返って不敵な笑みを浮かべている。隣には葬式かと思うような黒い和服姿の祖母が身動き一つせずに座っていた。

 向かい側には壮年の男性とその妻と思われる女性、そしてピンクや黒の派手な花柄の入った紺地の和服を着た彼らの娘が行儀よく座っていて、ドアが開いた途端、陸に全員の視線が集中した。

「ほう。こんな素晴らしいお孫さんがおいでとは存じませんでした」

「しかも真里亜(まりあ)と同じゼミだったと伺っております」

 D自動車の幹部である男性とその妻が順に言葉を発した。陸は仕方なく真里亜の向かい側の席に腰を下ろす。

「陸、お久しぶりね」

 真里亜は上品な笑顔で親しげに言葉を投げかけてきた。胸の中にはいくつもの皮肉のつまったセリフが浮かんだが、とりあえず「ああ」と適当な相槌を打つだけに留める。

「そして、陸さんは真里亜とお付き合いなさっていたとか?」

 真里亜の母親が陸のほうへ身体の向きを変えて話しかけてくると、父親は満面の笑みを浮かべて祖父に言った。

「全然知りませんでした」

(そりゃそうだろ)

 陸は内心で毒づいた。大学では勿論、入社してからも自分とK社の関係を知る人間はごく一部だ。真里亜にも当然言ってはいない。

「お母様、過去形でおっしゃるのはやめてください。私、陸とは別れた記憶がありませんもの」

 真里亜は普段よりも高い声で母をたしなめる。聞いているだけで気分が悪くなる会話だが、ここで口を挟むと事態が悪化しかねないので、陸はとりあえず目の前にある水を飲んだ。

「腹減ってるんだけど、食っていい?」

 わざと乱暴な言い方をすると、隣に座る祖母以外は機嫌を取るような愛想笑いを頬に貼りつけて「どうぞ、どうぞ」と勧めてきた。

 陸が箸を持つと、祖父と真里亜の父が現在の経済状況についての会話を始め、祖母は頑なに目を細くして手元ばかりを見つめていた。真里亜と母親はにこやかに小声で会話しあっている。

(つーか、コイツ、両親の前で猫かぶってんのか)

 真里亜が丁寧語を使うのを初めて聞いた、と思いながら料理を次々に口に放り込む。味わうような気分じゃないので、とりあえず腹を満たそうと思ったのだ。

 食べ終わって箸を置き、一息つくと陸はおもむろに立ち上がった。

「それで用件は?」

「まぁ、座れ」

 祖父の威圧的な声が聞こえてきたが、陸は無視した。

「俺はそちらのお嬢さんとは大学卒業時に音信不通になって終わってるし、半年前に以前から好きだった人と結婚しました。今更、お嬢さんにお会いしたところで、お互いに何の話もありません」

「そっちになくても、こっちにはあるのよ」

 向かい側で低い声がした。真里亜が上目遣いで陸を見る。

 とうとう正体を現したな、と思った。

「入ってちょうだい」

 真里亜が隣の個室との仕切りへ向かって呼びかけると、わずかに隙間ができて、そこから子どもを抱っこした女性が恐縮した面持ちで入ってきた。

 同時に真里亜は立ち上がってその子どもに手を伸ばす。子どもは嬉しそうに声を上げて真里亜の腕の中に納まった。



「あなたの子よ」



 陸はフッと鼻で笑った。

「ありえねぇし。そもそもその子、いくつ?」

「1歳になったばかりよ。計算してみなさいよ。ありえないって言い切れる?」

 陸と真里亜以外は息を潜めている。

 陸は真里亜に抱かれた子どもを見つめた。服装からすると女の子のようだ。真っ白い肌が目に入る。

「ありえないね。お前と俺はその前に終わってただろ」

 一瞬だけ真里亜が怯んだ。だが、すぐに立て直して再び噛みついてくる。

「言い逃れはやめて。どうやってそれを証明するのよ」

「DNA鑑定すれば一発でわかる」

 室内がシンとなった。

 話にならないと思い、陸は部屋を出ようと一同に背を向ける。そのとき、真里亜の母親の声が聞こえた。

「認知してくれるだけでもいいのよ」

 その言葉には悲痛な響きがこもっていて、陸は思わず足を止めた。

「お願いします」

 振り返ると、真里亜の母親は立ち上がって深く頭を下げていた。隣に立つ真里亜も気まずそうにうつむいている。

(なんだよ、それ)

「K社を全面的に支援するよ」

 真里亜の父親までもが立ち上がって、熱意のこもった様子で語りかけてきた。

「この子の父親になってくれないか? お願いします」

 陸は異様な光景を目の当たりにして困惑した。祖父が「陸、お前も男だろう」と真里亜一家を援護するのを睨みつけてみるが、不快感は増幅するばかりだった。



「無理ですね。他を当たってください」



 そう言い捨てて、陸は個室を出た。

 すぐ後からドアが開く音がしたので振り返ると、不機嫌そうな祖母が陸の後をついてきた。

「どこの親も子どもには甘いものだが、あれは酷い」

 小声だがきっぱりとそう言うと、祖母はようやく笑みを見せる。

「ばあちゃんはどう思う?」

「何が?」

「あの子が俺の子に見える?」

「そんなことはわからん。だが、それこそお前の言うようにDNA鑑定すればわかるんだろ? つまらない言いがかりだよ」

 陸は大きな嘆息を漏らした。どうやら相手側も陸が真里亜の子どもの父親ではないことをわかっていながら、この話を無理矢理進めようとしているらしい。

「俺が認知することで相手に何のメリットがある?」

 思わず疑問を口に出すと、今度は祖母がため息をつく。

「なぁに、簡単なことさ。相手がほしいのは『世間体』だよ」

「ああ」

 陸はようやく理解した。そして真里亜の両親の必死な様子が滑稽に思えた。

「覚悟おし。あれで諦めるような連中じゃない」

 祖母は陸の腕を叩く。

「わかってる。けど……」

「沙希ちゃんかい?」

 陸は頷いた。沙希にあらかじめ事実を話しておけば誤解は少ないだろうと思う。だが、陸としても話しにくい内容だ。

 祖母は首を傾げる。

「アドバイスはできかねるよ。あの真里亜とかいう娘と初対面だと言うなら話は別だがね」

 味方である祖母からも突き放されて、陸は肩を落とした。

 ホテルの玄関ではいつの間に先を越されたのか、振袖姿の真里亜が車の前で待っていた。

「少しお話したいので、陸さんをお借りしても宜しいですか?」

 真里亜は陸を無視して、隣の佐和に向かってそう訊ねた。

「どうぞ」

 そっけなく祖母は返事をして、陸に手を上げると一人でタクシーに乗り込む。それを見送ると、真里亜は待たせてあった車に陸を押し込むように乗せ、自分もちゃっかり乗り込むと車を出すように命令した。

「誰の子だよ?」

「陸よ」

 車が静かに発進すると、真里亜は結い上げていた髪の毛を解いた。長い茶髪がはらはらと肩に落ちてくる。

「教授じゃねぇの?」

「違うわよ。奥さんも子どももいる人の子なんか産むわけないでしょ」

「つーか最初から不倫なんかすんなよ」

「あら、やきもち?」

 車が右折する際に、真里亜は陸の腕にわざとらしくしなだれた。陸は即座にそれを押し戻す。真里亜の香水の匂いが鼻について、思わず顔を歪めた。

「俺、結婚したって言っただろ。気安く触るな」

「知ってる。あの地味な女でしょ? ああいう人のどこがいいのか、全然わかんない」

「大抵の男はお前じゃなくて沙希を選ぶ。現にお前、困ってんだろ。自業自得」

 陸はそう断定して隣に座る真里亜を鼻で笑った。

 真里亜は深呼吸すると「ふん」とそっぽを向く。

「K社は結構きわどい経営状態だってね。このままだとS社のグループ会社になっちゃうかもしれないって」

 この車はどこに向かっているんだろう、と思いながら窓の外を見た。この道を真っ直ぐ行けば会社の前に着く。

「降りる」

 陸はぶっきらぼうに言った。

「まだ話が終わってない」

 チラリとこちらを見た真里亜は気味の悪い笑顔を作る。本能的に「ヤバい」と思った瞬間だった。

「ここ、K社の前」

 陸は反射的に車外を見る。会社の前に一際長身で異様な風采の男がいた。漆黒のロングコートに肩の上で切り揃えられた栗毛色の髪、そして傍らには小柄な女性の姿がある。



「おまっ! 降ろせ!」



 見間違うわけがない。あれは沙希だ。

「男ってホント、バカ」

 真里亜はクスクス笑った。

「トオルも、ずーっと彼女のことが気になって忘れられないって。陸の女で落とせない女がいるっていうのが、彼のプライドを傷つけるそうよ」

「知るか! そんなプライド、クソ食らえだ」

 車の窓ガラスに張りつくようにして二人の姿を見ようとするが、陸の乗る車は既に会社からかなり離れてしまっていた。

 真里亜の笑い声が次第に大きくなる。

「いいじゃない。彼女、慣れてるんでしょ? もしかしたら嫌がってるふりして本当は喜んでるんじゃない?」

「お前、マジで最悪だな。女じゃなければ殴ってるところだ」

 怒りで震える右の拳を左手で抑えた。さすがに真里亜は笑いを引っ込めて運転手に声を掛ける。すると車はすぐ小道に入り停車した。

「考え直して。そうじゃなきゃ、彼女がどんな目に遭っても知らないから」

「汚ねぇな!」

「素直に『うん』と言わない陸が悪い」

「誰が言うかよ! もう二度と俺の前に顔を見せるな!」

 ドアを開けて車から降りると、後は本社の建屋へ向かって必死で駆けた。その間も真里亜の不気味な笑い声が後ろから追いかけてくるような錯覚に悩まされ、陸は何度も頭を振って、見えない影を払い落とそうとした。

 

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1st:2011/04/28
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