「潤也くんを心配して来たのか。お前たちはいつの間に仲良くなったんだ」
「仲がいいわけではないですよ」
陸は祖父を睨みつけながら言った。視線を動かすと、取締役の島田がなにか言いたげな表情で大きく息を吐くのが見える。
誰にも歓迎されていないことは明白だが、陸は気にせず椅子を探してくると壁際に席を作り、腰をおろした。
正面に座っている進行役が小さく咳払いをする。
「では、役員の欠員補充について、会長、お願いします」
会長と呼ばれた陸の祖父は、椅子の背もたれに身を預け、腕組みをして目を閉じた。
「さて、どうしたものか」
会議室内は奇妙な沈黙に包まれた。会長がいるだけで、空気までもが彼の支配下におかれるらしく、ヒリヒリするような緊張感が陸を包み込む。
「成長が頭打ちになった今、求められる人材はこの状況を打開する力を持つ者だろう。しかし私の見込んでいた者は、どうやらなんの役に立ちそうもなく、完全な見込み違いだったらしい。己の武器を使いこなすこともできないくせに、なにを成し遂げられるというのだろうな」
ひとりごとにしてはずいぶん大きな声だ、と陸は内心でケチをつけた。祖父は間違いなく陸を標的にしている。しかし、こうして役員が勢ぞろいする中で、祖父とやり合うのは得策ではない。素知らぬ顔で役員たちの顔を順に眺めていく。
「それでは亀貝潤也くんの後任は空席としますか?」
進行役の左隣に座る現社長が結論を急いだ。進行役は眉に皺を寄せ、おそるおそる会長席へ視線を移動する。
「潤也くん以上に能力のある者がいるなら、ぜひ推薦してほしい」
会長が口元に笑みを漂わせてそう言うと、役員たちは一様にテーブルへ視線を落とした。潤也以上の優秀な人間が簡単に見つかるなら、この会社だってここまで深刻な状況には陥らないだろう、としらけた気分で陸は首を回す。
なにげなく役員たちを見まわしていると、ひときわ強い視線を感じ、陸は反射的にそちらへ目をやった。
(島田さん……?)
祖父の近くに座る島田は、意味もなく顎をさわりながら陸へ射るような視線を送っていた。
(なんなんだよ)
陸は一瞬だけ眉を寄せ、険しい表情を作る。島田は顎をさわる手を止め、その手をスッと上にあげた。
「島田さん、どうぞ」
進行役が意外そうな顔で島田を見る。手をおろした島田は会長を一瞥し、それからよく通る声で発言した。
「私は浅野陸くんを推薦します」
「なっ……」
陸は思わず立ち上がっていた。
「彼はS社の重役とも太いパイプを持っているし、社内でも若きリーダーとして彼を推す声は多い。まだ若すぎるという意見もあるでしょうが、ここにいる我々ができないことを次に来る人にやってもらおうと期待するなら、若くて活きがいい人を入れるべきでしょう」
「島田、私の話を聞いていなかったのか?」
会長の威圧的な口調をものともせず、島田はさらりと言う。
「聞いていましたよ」
「アレのどこが潤也くん以上なのか、まったくわからんな」
アレと呼ばれ、陸の眉がピクリと跳ね上がる。複数の視線を浴びる中、ただ突っ立っているのも不自然なので大きなため息をつきながら腰をおろした。
「陸くんのいいところは、つんのめるほどの背伸びをしないことですよ」
(なにそれ?)
純粋な褒め言葉とは思えず、陸は少し首をかしげる。会長が島田へ疎ましげな視線を投げつけたが、それを島田は涼しい顔で受け流し、突然陸のほうを向いて明るい声で言った。
「陸は若いわりに慎重派ですからね。会長が期待する若者の姿とは少し違うかもしれませんが、ともすれば我々が忘れてしまいがちな基本的なことを、陸はいつも教えてくれます」
「賛成」
話をしたことのない役員が手を挙げた。それに数人が続き、陸に期待する視線が投げかけられる。
この雰囲気にのまれて、つかの間、陸は茫然としていたが、自分がここに来たのは役員に指名されたいがためではないことを思い出した。
「僕は役員になりたくてここに来たわけじゃない」
「じゃあ、なんのために来た?」
会長の声が室内に低く響く。
「潤也さんが役員を辞める必要はないと言いに……」
「彼は自ら辞意を伝えてきたんだ」
「え……?」
陸は慌てて潤也を見る。出入口に一番近い席に着く潤也は、頑なに無表情のままで宙を見据えていた。
「会議はここまでにしよう。陸とふたりだけで話がしたい」
会長のひとことで役員たちは一斉に立ち上がり、速やかに退室していく。島田だけが陸の前を通りすぎる際、ポンと肩を叩いていった。
ドアが閉まると、身震いしたくなるほどの静寂が訪れる。
「お前はつくづく私の期待を裏切ってくれるな」
「そりゃ、悪かったな」
陸と会長の他には誰もいない。陸は言葉を飾ることをやめ、パイプ椅子の背もたれに身を預けた。ギィと嫌な音がしたが気にしない。
「『売り家と唐様で書く三代目』……まさにお前のことだな」
陸はフンと鼻で笑い、祖父の顔を見る。
「俺がいつ三代目になるなんて言った?」
「ほう。ではこの会社になにをしに来たんだ? お前の母親は反対しただろうに」
「母さんはなにも言わねぇよ。俺は自分の意志でこの会社を選んだ。同じ土俵に上がらないと戦うこともできないからさ」
「戦う? 誰と?」
祖父が不思議そうな顔をするのを、陸は愉快に思う。
「俺と血の繋がりのある人間」
「ほう。お前が私と戦う、と?」
「俺がこの世に生まれてきたのは、アンタらを越えていくため。甘やかされて、すべて与えられて、腑抜けにされるために生まれてきたわけじゃねぇんだ」
フフフと祖父が笑い出すのを、陸は注意深く観察していた。
「なるほど。お前にしてはおもしろいことを言う。確かお前がやっていた音楽も、ロックだかなんだか知らんが、つまりそういうことを叫んでいた、と」
「バカにしたければ、好きなだけバカにすればいい。俺はジイちゃんが期待するような人生を送るつもりはないから。金のために結婚するとか考えられねぇし、俺がジイちゃんの孫だからこの会社を継ぐのが当然なんて主張は勘違いもはなはだしいと思ってる」
そこまで言うと、陸は立ち上がり祖父に背を向けた。ドアノブに手をかけた瞬間、しゃがれた声が聞こえてきた。
「お前が潤也くんを味方につけ、あの堂本のお嬢さんを黙らせるとは、な」
振り向くと、祖父の不敵な笑みが目に入った。
「いいだろう。陸、役員になれ」
「はぁ!?」
「合格、だと言っているんだ。お前が自分の力でここまで来たんだ。今さら尻込みするヤツがどこにいる?」
にわかには信じがたい言葉だった。陸は祖父が自分を認めたのだとわかるまでに、しばらく時間を要した。
「俺はまだ経験とか実績とか、全然足りないぞ?」
「お前にそんなものを期待する人間は、世界中どこを探してもいない」
「ジイちゃんの期待には応えられないかもしれないぞ?」
「そんなものは最初から期待していない」
ウソだろ、と叫びたくなるのをこらえて、陸は祖父の顔をじっと見つめた。ウソや冗談で言っているわけではなさそうだ。しかし、ひとつだけまだ解決していない問題がある。
「D自動車のことはどうすればいいんだよ」
祖父がフッと笑った。
「ケリをつける自信はあるのか?」
「俺が? ……どうかな。これ以上こじれようもない最悪の展開だし」
「だからといって放置しておくわけにはいかないだろう」
そう言った祖父が、いつか見た入院中の孤独な老人と同一人物だとは思えず、目をこすりたい衝動に駆られた。
昨日沙希に見せた古いスピーカーを作ったのも、視線の先にいる祖父なのだ。その音を聴いて「懐かしい気持ちになります」と言った沙希の声が耳の奥で優しく響く。
懐かしいというのは、確かこんな気持ちではなかったか――?
「ジイちゃんも協力してくれるんだろ?」
陸が顎を上げて笑うと、祖父は呆れたように反り返り、「そういうところはまだまだガキだな」とこぼした。
部署のフロアへ戻ると、書類を広げたまま珍しくぼんやりしている潤也の姿があった。陸はそれに気がつかないふりをして、以前沙希が使用していたデスクのパソコンを起動する。
「これもシナリオどおりなんだろうな」
潤也は陸を確認し、自嘲気味の笑みを浮かべた。
陸は黙ってノートパソコンの画面を見つめていた。潤也が自ら役員から退きたいと言い出すとは思いもしなかったので、かけるべき言葉が見つからない。
「俺が陸の下で働くことになるとは思わなかった。お前の粗探しか。まぁ、それも悪くないかもしれないな」
「つくづく悪趣味ですね」
陸は呆れた声を出し、無理をして明るくふるまっている潤也に無関心を装った。こんなときは同情されるとますます惨めになるものだ。自分だったら口数を減らし、さっさと仕事を終わらせ、早く家に帰って沙希に思う存分甘えるはず、と陸は内心思う。
(ま、沙希が甘えさせてくれるとは限らないけどな)
いずれにしろ、陸の仕事は潤也を慰めることではない。しかし潤也は一向に気分が晴れないらしく、ため息まじりにつぶやいた。
「どうして俺がお前の引き立て役をしなきゃならないんだ」
「罰が当たったんじゃないですか?」
「罰?」
「ほら、パリにまで乗り込んできて、俺の悪口をまくし立てていたでしょう」
「悪口じゃない。真実を述べただけだ」
「ホント、いい性格していますよね」
陸は横目でチラッと潤也を見た。潤也はまた書類から目を離し、考えるような視線を宙に放つ。
「俺がこっちに呼び戻される前から古賀は堂々と不正を働いていた。それに気がつかなかったのは不覚だった」
「古賀は営業部じゃ悪名高いヤツだったけど、実際その尻尾をつかんだヤツはいなかった。だからいくらアンタが有能でも、それは仕方ないことだと俺は思うね」
丁寧語をやめたのは、面倒くさくなったからだ。
フッと潤也が笑った。
「浅野さんはお優しい」
「そうじゃなくて、さっきアンタが言ったとおり、これはある程度シナリオがあって、そこで俺たちはバカみたいに踊らされていたんだ」
陸の脳裏には、祖父と実の父親の姿が浮かぶ。
沙希を初めて祖父の家へ連れて行った日、沙希の顔写真を広告に使いたいと奇妙な提案があり、そのとき祖父から潤也を呼び戻すと告げられた。祖父が描いたシナリオの詳細はわからない。だが陸と潤也を競わせるための舞台は、意図的に作られたものと考えるのが自然だろう。
「で、これは俺の予想だけど、ジイさんとおっさんは賭けをしてたんじゃないか?」
「おっさんというのは、坂上のおじさんのことか?」
「そう」
「お前の言葉遣いもひどいじゃないか」
俺はいいんだよ、と心の中で吐き捨てて、陸はパソコンの画面に視線を戻した。スレッド上にある新着メールのタイトルと差出人を確認したが、そこで手を止める。
「おそらく賭けに勝ったのはおっさんだ」
画面を見つめたまま陸は、ずっと考えていたことを口にした。
「どうしてそう思う?」
「ジイさんはアンタと俺が反発し合ってライバルになればいいと思っていた。だからこの騒動で俺らが協力していることに不満なんだろうな」
「なるほど。……いずれにしろ俺は、陸の踏み台、ということか」
「俺に踏まれて黙っていられるような男じゃないだろ、アンタは」
それを聞いて、潤也がニヤリと笑う。
「確かに俺はそんなにお人好しではない」
「じゃあ、さっさと役員に返り咲いてくれ。俺ひとりじゃ、やりにくくてしようがねぇ」
これは陸の本音だった。自分の父親と同年代のエリートたちを相手にどこまで踏み込んでいけるのか、正直なところ陸にはまったく自信がない。そもそも会社の経営については初心者も同然なのだ。
その点、起業経験のある潤也は、やはり陸よりも役員にふさわしいように思われた。潤也のやり方を好きになれるかどうかは別として、それでも頼りになる人間であると認めざるを得ない。
(それを認めても、今はそんなに悔しくないな)
この道を選んだ当初、陸は自分の前に立ちはだかるものをすべてなぎ倒し、誰よりも高いところへ登りつめることをイメージしていた。だが入社後すぐに営業部で矢野の仕事ぶりを目の当たりにし、自らの考えがいかに幼稚だったかを思い知ることになる。だから潤也という高いハードルが現れたときも、簡単に飛び越えることができるとは思わなかった。
祖父と坂上が賭けをしていたかどうかは不明だし、陸にとってはどうでもいいことだ。ついでに言えば、沙希を巻き込んだことだけは許しがたい。
しかしこれらの試練が、陸だけでなく沙希や潤也にも大きな影響を与え、それぞれを次のステージへ押し上げる役目を果たしたのかもしれない。そう考えると不思議なことに、陸の心の奥で燃え盛っていた怒りの炎は小さくなっていく。
(人生が茶番劇の連続だとしても、俺はアンタたちの期待以上の演技をしてやるからな)
そして演じている人間全員が、自分の役を愛し、楽しめるような劇に少しずつ作り変えていけばいいのだと思う。
簡単ではない。だからこそ胸が躍る。次のステージに立つ自分自身の姿を想像して――。
戌の日という言葉を、沙希が知ったのはつい最近のことだ。犬は多産であるにもかかわらずお産が軽いため、それにあやかり、妊娠5ヶ月最初の戌の日に腹帯を巻いて安産祈願するものらしい。
妊婦健診が終わった後、『祝』の文字が入ったさらしを受け取った沙希は、そろそろ不安が目いっぱい詰まった胸を撫で下ろしてもいいのだろうかと考えていた。
実際、流産の確率が高い時期をなんとかやり過ごし、つわりも波が引いていくように収まりつつあった。
体調がよくなってくると、気分も晴れやかになる。少し前まで1日の大半をベッドの上で過ごしていたのに、妊娠5ヶ月に入ると急に外出するのが楽しくなってきた。
そんな沙希の様子は、坂上の屋敷で生活する者全員を元気づけることにもなった。
夕食と入浴を終え、寝室でくつろいでいると、陸がしみじみとした口調で言う。
「帰宅したとき、沙希がこんなふうに元気で明るく笑っていると、俺の1日の疲れが吹っ飛ぶよ」
「そ、そういうものかな?」
沙希が照れて苦笑いを浮かべると、背後から陸に優しく抱きしめられた。つわり中の沙希は匂いに敏感だったため、陸は香水を遠慮してくれていた。今はかすかにボディソープの香りがするが、嫌いな匂いではない。沙希は思わずうっとりと目を閉じた。
「沙希がもっと優しくしてくれたら、もっと元気になれる気がするんだけどな」
「えっ、私……優しくないかな?」
慌てて目を開け、身体をこわばらせる。耳元でささやく陸の艶を帯びた声に、沙希は身の危険を察知したのだ。
「お前は優しいよ。どこもかしこも優しいから、愛しくてたまらない」
「……んっ!」
沙希の耳たぶを陸の唇が掠めた。甘い痺れが電流のように全身を駆け抜ける。肩をすくめて耳を隠すと、陸は髪をかき分けうなじへ唇を這わせた。背中がぞくりとし、沙希の意志とは無関係にまだ触れられていない箇所が熱を帯びる。
「くすぐったい……」
「ダメって言わないな」
「ダメって言ったらやめるの?」
「やめてほしいの?」
陸がクスクス笑う。首筋に陸の吐息がかかるだけで、沙希はじっとしていられず身を捩った。
「わかん……ない」
「だよな。沙希は『してほしい』って言えないからな」
そんなことを言えるわけがない、と思っていると、陸の手が沙希の胸を遠慮がちに包み込んだ。
「あ、また大きくなったな」
「そうかな? でも今だけだよ」
陸の手のひらにすっぽりと収まってしまうほど小ぶりだった胸の膨らみは、豊かと言えるほどに大きくなっていた。陸は両方の手のひらでその感触を存分に味わっている。沙希としては恥ずかしさももちろんあるが、より女性らしい身体つきに変化した自分が誇らしくもあった。
「小さいのも好きだけど、これもいいな。柔らかくて、ずっとさわっていたくなる」
陸は沙希の耳元でそう言うと、布地の上から親指で膨らみの先端を軽くなで始めた。
「……やっ」
「固く尖っている。かわいい」
「ダメ……」
「なにが?」
「そんなふうに……しちゃ……っ」
陸の指は固くなった先端をつまんだり、転がしたりしながら、沙希の官能をじわじわとあおる。
沙希が背を丸め気味にすると、陸の手が急に離れた。
「ベッドに移動しよう。腹が痛くなったら困る」
「うん。でも……」
その場で立ちすくむ沙希の手を陸が握った。
「心配?」
沙希は小さく頷く。
安定期に入り、医師から「もう安静にする必要はない」とお墨付きをもらっていたが、初めての妊娠だし、これまでの経過が決して順調ではなかったから、やはり不安がつきまとう。
しかし陸の気持ちを考えると、簡単に拒否することもできない。それに沙希自身、陸が誘う快楽の海に身を任せ、溺れてしまいたいような衝動が芽生えていることに気がついていた。
陸の手にぎゅっと力が入る。
「だよな。やめといたほうがいい? 沙希が嫌ならしない」
「嫌っていうわけじゃ……」
そこまで言いかけたとき、陸の顔が急接近し、沙希は慌てて言葉を飲み込んだ。目を閉じるのと同時に唇が優しく重なる。
キスをしたままで陸は沙希の背中に手を回し、ゆっくりベッドのほうへ移動した。ベッドの端に腰をおろすと、陸の舌が沙希の唇を舐め始める。それに応えようと沙希も遠慮がちに唇を開くと、陸はその隙間を埋めるように侵入してきた。
互いに舌を絡め、口内をまさぐるうちに、陸の手が沙希の胸をもう一度やんわりと包み込んだ。沙希は陸のパジャマに縋りつく。
「大丈夫?」
唇が離れると、陸が心配そうな目をして沙希の顔を覗き込んだ。しかしやわやわと胸の膨らみを揉みしだくことはやめない。
「嫌じゃない、ってことは、沙希も俺に触ってほしかったんでしょ?」
「そんなことな……、んっ」
陸は沙希のネグリジェのボタンを上からふたつだけ器用に外し、手をするりと滑り込ませた。膨らみの先端は花の蕾のように固く尖っている。それを陸の指が円を描くように転がすと、途端に痺れるような感覚が全身を駆け抜け、身体が熱くなり、心はもうとろけ始めていた。
「ここはちっちゃくてかわいいままだな」
「……っ、それは言わないで」
「いいじゃん。もう少ししたら、俺だけのものじゃなくなっちゃうんだぞ。今のうちに堪能させてよ」
さらにボタンが外され、胸があらわになった。陸はそこへ顔を埋めるようにして、片方の蕾を口に含み、舌で転がすようにした。
「ぁ……んっ……、はぁ……」
沙希は陸の頭を抱えるようにしたが、腹部に力が入ってしまう体勢だった。陸は沙希の膝の下に腕を入れ、沙希を一旦抱き上げると、ベッドの上に横たえた。すぐに陸も隣に横たわり、沙希の髪を梳く。
「沙希がつらいことはしないから、安心して」
溶けそうな優しい笑顔はこの先の行為を期待してのもの、とわかってはいても、陸の嬉しそうな顔を見ると沙希も幸せな気分になる。
こくんと頷いてみせると、陸は沙希の唇に軽くキスをして、足のほうへ手を伸ばした。布地の上から太ももを柔らかい手つきで何度も撫で上げる。そのうちネグリジェの裾がめくれ、素肌に陸の熱い手のひらが直に触れた。