いつもは整頓されている潤也のデスク上に、書類が乱雑に積み重ねられていた。少し前まで黒川が使用していたデスクもファイルが占領し、今にも雪崩が起きそうになっている。
そして沙希のデスクではノートパソコンが起動中だ。しかしフロア全体はひっそりと静まり返り、人の気配がほとんど感じられない。
陸は潤也のデスクから書類を取り上げ、目を通す。
(プロキュアメントセンターの資材発注記録だな)
陸の手の中にある記録は約2年前の日付になっている。デスク上には同じ日付のものが無造作に重ねられていた。どうやら印刷したものの、それを整理して綴じる暇がなかったらしい。
次に黒川のデスク上に積みあがるファイルのひとつを開く。
(契約書か。中国語――そういえば潤也は本社に戻る前、中国の事業所立ち上げをしていたな)
中国語はわからないのでファイルを閉じ、背表紙を見ると、「部品調達関係契約書」と書かれていた。
プロキュアメントセンターとは、製品の生産に関わる資材や部品の調達を担うK社の1部門である。事業所ごとにプロキュアメントセンターを配置し、本社で全体を統括するシステムを導入しているが、実際に統括しているのはコンピュータのプログラムだ、と陸は冷ややかな目で沙希のノートパソコンを見た。
そこへドアの開閉する音がしたかと思うと、複数の足音が陸のいる場所へ近づいてきた。
「おっ、頼もしい助っ人の到着だ」
先頭に立ってパーテーション内へ身体を滑り込ませてきたのは、かつて陸の実父坂上の右腕だった島田だ。その後に厳しい表情をした潤也が続く。潤也は陸を見ると嘆息を漏らした。
島田は陸の隣へ来ると、手に持っていた書類を差し出した。
「ついにトラが牙を剥いたぞ。しかも狙われたのは意外や意外――こちらはてっきり陸がやられるのかと待ち構えていたんだが、ヤツらはまったく別の方向から攻めてきた」
「別の方向?」
渡された紙には潤也宛のメール本文が印刷されている。陸は読み進めるうちに顔から血の気が引いていくのを感じた。
「なんだ、これ。……ウソ、だろ?」
明るい声を出していた島田まで難しい顔で唇を噛んでいる。
メールの差出人はD自動車の品質管理部責任者である。内容は簡潔だった。
『K社がD自動車へ納めた車載部品から、欧州にて施行されている有害物質使用制限指令に抵触する物質の使用が認められた』
陸は持っていた紙を黒川のデスク上へ放った。
「仕入先はもう完全に鉛フリーになってるだろ? 特にD自動車に納品しているものは最新機種だから、そんなこと絶対にあるわけがない」
思わず言葉に力が入る。数年前ならたびたび問題になったことだが、対応が進んだ現在、D自動車に指摘されるような事態は起こりえないはずであった。
「陸の言うとおりだ。しかし『絶対』と言い切れることが、この世には悲しいほど少ないというのも事実さ」
島田はそう言って、陸が放った紙の上に別の紙を重ねた。製品の使用物質名と使用量を表にしたものだ。その一列に網かけが施されている。陸はその箇所を茫然と眺めた。
「それで、その該当製品の検査は?」
「だから、それがそうだ」
「いや、ウチの会社で検査したのか、ってことだよ」
「だから、それがウチで検査した結果さ」
淡々と答える島田の目を、陸は食い入るように見た。
「どういうことだ?」
「ウチで調達した部品の中に、鉛を含む製品があったということだ。しかし我が社が取り寄せたデータにはこれほどの鉛を含む部品は存在しない。つまり、発注した部品と納入された部品が別物だった、というわけだ」
島田の明快な説明に、潤也のため息が追加された。これまで言葉を発していなかった潤也が、重い口を開く。
「私のミスです」
あっけに取られた陸は、肩を落とす潤也をただ見つめることしかできない。
「まぁ、潤也くんが悪いわけじゃない。君の目を盗んで私腹を肥やしたヤツがいたのさ」
「……それ、潤也が立ち上げた中国の事業所絡みなのか?」
「笑いたければ笑えばいい」
潤也はつぶやくようにそう言うと、自席についた。悲痛な表情でしばらく目を閉じるが、ふたたび目を開けたときにはその表情が一変する。机上の書類を切り刻んでしまいそうな鋭い眼光が陸をとらえた。
「せっかくお前が取りつけてくれたD自動車からの出資だが、それも白紙になった」
「……そう、か」
さすがに島田も深刻な表情をしていた。D自動車の出資のみで財務を立て直そうとしているわけではないが、これが明るみに出れば世間では「K社は危ない」というイメージが定着しそうだ。イメージの低下は売り上げにも影響する。
「ま、資金調達のほうはおじさんチームで早急に手を打つから、潤也くんと陸は原因究明に取り組んでほしい。よろしくな」
島田は陸の腕を軽く叩くと、パーテーションをすり抜けていった。
「俺はなにをすればいい?」
陸が指示を求めると、潤也は無言でメモ用紙を差し出した。
そこにはいくつかの部品の型番が記されていた。陸はそれを目でなぞる。アルファベットと数字の羅列だが、入社当初とは違い、今の陸には親しみのある文字列だ。黒川のデスクに積まれたファイルの中から、これらの型番に関する書類を抜き出す作業が先決らしい。
「今日中になんとかなりそうなのか?」
「なんとかするしかない」
これが社内の誰にでも頼めるような仕事ではないことは陸にもわかる。明日になれば他の社員も出社し、この不正調査だけに時間を割くことは不可能だ。
潤也はひどく疲れた顔をしていた。
(それもそうか……)
プライドの高い潤也にとって、これがどれほど屈辱的状況であるかは想像に難くない。なにしろ自分の管理下で不祥事が発生したのだ。「バカは嫌い」だと公言している潤也だが、それと同じくらい不正を憎む潔癖症の彼がずる賢いだけの人間を許すわけがなかった。
(潤也は完全に貧乏くじを引いたよな)
もともと潤也は優秀な人間だ。若くして数々の成功をおさめ、K社では誰よりも早い昇進で役員になった。仕事の処理能力は群を抜いているし、彼独自の理論から導かれる判断には安定感がある。他人を見下した態度だけは玉に瑕だが。
しかし不思議なことに、それがD自動車――もっと具体的にいえば堂本家――が絡むと、潤也は自らの力を有効に使うことができなくなっているような気がした。
『おそらく俺は最初から信用されていなかったんだ。堂本側だけでなく、会長にも……』
潤也の吐いた弱音が、なぜか今も耳の奥に残っていた。
少し前の陸なら、暗い顔をした潤也を見てひそかに溜飲を下げただろう。しかし今日はどうもそういう気分にはなれない。それどころか潤也に同情のようなものを感じ、胸にはやりきれない気持ちが渦巻いていた。
(アンタはミスするような人間じゃないだろ)
小さく嘆息を漏らす潤也を盗み見て、陸は顔を歪める。
ふと、ここに沙希がいれば少しは空気が軽くなっただろうか、と彼女のデスクを見て思う。しかしすぐに、それはないか、と考え直して次のファイルを開く。そもそも潤也は今の自分を沙希に見せたくないはずだ。
そんなつまらないプライドを捨てたら、潤也にも恋人ができるかもしれないのに、と余計なことを考えて、陸も小さくため息をついた。
目が覚めると室内は夜が支配する闇色に塗りつぶされていた。
沙希は自分がどこにいるのか、一瞬わからなくなり焦る。上体を起こし、暗い室内を見回した後、ようやくここが坂上の屋敷だと思い出した。
広いベッドに横たわっていたのは沙希だけだった。暗闇の中、目をこらして時計を見ると23時を過ぎている。陸はまだ帰宅していないのだろうか。
ゆっくりとした動作で足を床に下ろし、腹部に力を入れないようにして立ち上がる。のどが渇いたので、外套にも使える厚手のロングニットカーディガンを着込み、そろそろと階下へ向かった。
食堂には誰もいない。執事の牛崎もすでに自室へ下がったようだ。常夜灯の頼りない光の中、沙希は浄水器から水を汲み、のどを潤した。
コップを洗って食堂を出る。胸の前で固く腕を組み、背を丸めて玄関へ向かった。静かに靴箱を開けてみるが、陸の靴が見当たらない。やはり外出中のようだ。
玄関から引き返し、リビングルームのドアの前で沙希は立ち止まった。灯りがついている。一応挨拶だけでも、と思い、ドアノブを回した。
「おや、こんな時間に……お腹が空いたのかな?」
坂上は沙希の顔を見た途端、そう言った。思わず苦笑すると「寒いから入りなさい」と促された。沙希は「はい」と小声で返事をし、急いでドアを閉める。
いくらこの屋敷が豪華で頑丈な造りであるといっても、雨風をしのいできた年数には勝てないのか、冬は遠慮なく冷気が入り込む。玄関は暖房がないため、すきま風が足元から這い上がってくるような感覚だ。
リビングルームは暖房が入っていて暖かかった。坂上は読んでいた本を脇に置き、沙希に座るよう促す。沙希は軽く会釈をして、ソファに腰かけた。
「陸はまだ帰ってきていない」
「ずいぶん遅いですね」
「トラブルが発生したんだ」
「トラブル?」
坂上は小さく頷いた。
「D自動車から支援を受けられなくなった」
「え……?」
「沙希ちゃんまで巻き込み、危険な目にあわせてしまったのに、こんなことになってしまって残念だ」
静かな口調の中に重苦しい響きが感じられる。それを振り払うように沙希は首を横に振った。
「むしろ私が足を引っ張ってしまって……申し訳ないです」
「まさに、あのご両親にしてこの子あり、だね」
笑いを含むその声に、沙希は心底驚いた。
「あの……私の両親に会われたのですか?」
坂上が目を細めて笑う。
「君をこのような形で巻き込んでしまったのは、私の責任だ。どうしてもご両親にお詫びしたくて、君との面会が終わった後、病院の応接室を借りて、少しお話させていただいたよ」
「そうでしたか」
「ご両親は、君と陸がここに居候していることを、ひどく気に病んでいた。こちらが恐縮してしまうほどにね。だが私のほうでは迷惑に思うことなどひとつもなく、この生活をとても楽しんでいる」
とはいえ、いつまでも坂上の厚意に甘えてはいられない、と沙希も感じていた。曖昧に微笑んで坂上から目をそらす。
それを見透かしたように坂上はフッと笑った。
「失ったものを取り戻すのは困難だが、そうではなく、別の形で新しく築くのも悪くない。だから君には本当に感謝しているんだ」
「私はなにも……。それに以前、陸がこう言っていまし……」
途中まで言いかけたが、急に口をつぐむ。玄関が開く音がしたのだ。沙希と坂上は顔を見合わせた。
少し乱暴な物音はリビングルームへ近づいてくる。
「その続きは、いつか聞かせてもらうことにしよう」
沙希が頷くのと同時にドアが開き、疲れた顔をした陸が入ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「こんな時間に起きていて大丈夫か?」
咎めるような口調の陸は、沙希の隣に来て腰をおろした。たぶん坂上とふたりきりで話をしていたのが気に障ったのだ。沙希は小さくなって「うん」と答える。
「沙希ちゃんが起きてきたのは、ほんの少し前だ。お前の帰りが遅いのを心配していたんだよ」
「遅くなって悪かったな」
陸は大きく息を吐いた。その目が充血していることに気がつき、沙希は陸の顔を覗きこむ。
「目が赤いよ」
「まぁな」
面倒くさそうに返事をした陸は、沙希の視線を避けるようにして、ソファの背もたれに身を預けると目を閉じた。かなり疲れているようだ。
沙希はさらにいたたまれない気持ちになるが、じっとしているほかない。その重苦しい空気を追い払うような穏やかな声が、向かい側から聞こえてきた。
「それで、どこまで進んだ?」
「目星はついた。あとは証拠を固めるだけだな」
「ほう。どこにいた?」
「営業3課」
陸の短い返事に、沙希の肩がビクッと震えた。
(営業3課……?)
以前、営業部に所属していた沙希だ。発生したトラブルの詳細はわからないが、営業3課の人間がこの問題に絡んでいるのなら、犯人は沙希もよく知る人物ということになる。
まっ先に沙希が苦手とする社員の顔が浮かんだ。その男の乱暴な言葉遣いを思い出すと、胸がムカムカしてくる。
陸がチラッと横目で沙希を見た。心を裸にされるようなその視線に、沙希はドキッとする。
「古賀だよ。なかなか尻尾を出さないヤツだから手間取った。アイツ、表向きの業務処理はほとんど他人に押しつけて、陰でこそこそやってるみたいだな」
「ほう。陸はずいぶん前から彼を毛嫌いしていたが、なかなか鋭いじゃないか」
「俺はああいう下品な輩を軽蔑するね。不正に手を染める自分を賢いと勘違いしているような愚かな連中は、今すぐにでも絶滅してほしい」
「ずいぶん過激だな。潤也くんが言いそうなセリフだ」
「うるせぇ」
そう反撃するものの、言葉は案外弱々しい。陸の潤也に対する態度がまた少し変化していることに、沙希も気がついていた。
突然、陸の手が沙希の肩の上にポンと置かれる。
「ヒントをくれたのは沙希だから、すごく感謝してる」
「どういうこと?」
沙希は驚いて身体ごと陸のほうへ向き直った。陸が疲れた顔に薄く笑みを浮かべる。
「沙希が会社で倒れたとき、商談室のドアが少しだけ開いていただろ? そこに古賀がいて、火がついたように怒っていた。大声に驚いて、思わず俺も覗いたんだ。そのとき、とっさになにか変だと感じた。そもそもどうしてドアが開いているんだ?」
暑い夏の日の出来事を思い出そうとしたが、倒れた前後の記憶はあやふやでうまくいかない。しかし沙希も、商談室のドアが少しだけ開いていたことは、はっきりと覚えている。陸と同様、おかしいと感じたからだ。
「ま、沙希を抱き上げた瞬間にチラッと覗いただけだから、当時は深く考えもしなかったけど、たぶんあれは他人に聞かせるためのパフォーマンスなんだ。部長に問い合わせたら、それも部品納入に関するトラブルだった。古賀は社内の人間にバレないよう必死で怒鳴っていたんだな」
「なるほど。しかしそれだけでは彼が不正を行っているとは断定できない」
坂上の言葉に沙希も頷かざるをえない。
「だから『ヒント』って言っただろ」
そう言って陸は背もたれから身を起こし、坂上をまっすぐに見た。
「契約書を保管しているファイルの中に覚書があった。その承認印がなぜか社印ではなく、古賀のサインなんだ」
「その覚書の内容は?」
「簡単に説明すると『鉛フリー製品を準備できるまでは鉛含有製品を納入する』ことを承諾するものだよ。これがいまだに効力を発揮しているらしい。こちらの発注は鉛フリー製品なのに、実質納入されていたのは鉛含有製品ってことだ。割高な鉛フリー製品の価格を支払っているのに、だぞ?」
「その利ざやが彼のポケットにも入っている、ということか」
「だろうな。そんな覚書の存在を知らなかった潤也はショックを受けてるよ。ま、同等の国内メーカー品ならもっと割高だから、その価格に疑問を持つこともなかったし、これまでの抽出検査でも運よく発覚しなかった。そこらへんはおそらく古賀が巧妙に細工していたんだろう」
坂上は納得したように頷いた。
「お前たち、なかなかいいコンビじゃないか」
「コンビとか言うな! お笑い芸人じゃあるまいし」
沙希が小さく噴き出すと、途端に陸の鋭い視線が飛んでくる。慌てて首を縮めたが、陸はしつこく沙希を睨んでいた。
「……ったく、ふたりとも緊張感ねぇな。このままだとK社が破綻するかもしれないんだぞ?」
「でも、陸と亀貝さんが協力して仕事すれば大丈夫なんじゃない? 今、陸の話を聞いていて、そういう気がしたの」
陸はさらに目つきを鋭くするが、向かい側で坂上がフッと笑った。
「沙希ちゃんはいいことを言う」
「あのな、金はどうするんだよ。俺たちが協力して仕事したところで、資金がなきゃどうにもならないだろうが!」
「それは会長に指示を仰ぐべきだ」
「は? ジイさんに?」
「D自動車との交渉は会長の仕事だ。会長を差し置いてお前たちがなにかしようとしても、決して成功しないだろうな。……違うか?」
「いや、それはそうだけど」
「組織とはそういうものだ。各々が自らの役割をこなすことによって、大きな車輪を回していく。会長には会長の仕事をしてもらわなければならないだろう?」
「……つまり俺に『ジイさんのところへ行け』と言ってるのか?」
陸はあからさまに嫌な顔をした。それを見て坂上は苦笑する。
「少なくとも今日の成果を報告すれば、会長も喜ばれると思うぞ」
沙希の隣で、陸が盛大な嘆息を漏らす。
「もう寝るぞ」
そう言って陸は立ち上がった。
翌朝、潤也の車の助手席で、陸は大きなあくびをした。
就寝前に潤也へ電話して坂上に言われたことを伝えると、すでに会長へ面会を申し入れていると返された。陸は潤也の段取りのよさに舌を巻くが、くやしいのでそれを悟られないように平然と「ついでに俺も乗せてくれ」と頼んだのだ。
潤也は坂上の屋敷まで出向き、陸を拾うと、会長宅を目指して高速道路に入った。都心をめざす車は多いが、山奥へ向かう車線はスムーズに流れている。
「アンタは車間距離を詰めておきたいほう?」
「なんだよ、突然」
運転席から怪訝な視線が投げつけられる。陸はフッと笑いを漏らした。
「いや、俺の妻が神経質で、前の車のすぐ後ろを走っていると『近すぎる。追突したらどうする』って心配するんだよ」
それを聞いた潤也はなにも言わずに、少しだけアクセルを緩めた。
「俺はそこまで神経質じゃないから、気にしなくていいけど」
「お前、本当に嫌味なヤツだな」
「そう?」
「確かに、俺には助手席に女性を乗せてドライブするような暇がなかったが、それをお前にどうこう言われたくない」
潤也の生真面目な返事に、陸は失笑する。
「アンタ、俺のこと、遊びまくってると思っているだろうけど、それ、誤解だから。俺は助手席に沙希しか乗せたことないし。それにアンタだって、彼女作ろうと思えばすぐできるだろ」
「お前と違って、俺はモテないから無理だ」
「そんなことねぇよ。アンタはまだ出会ってないだけだって」
ハンドルを握る潤也はフンと鼻で笑った。
「お前は『もう出会った』と言わんばかりだな」
「当たり前だろ」
「川島さんは、お前にはもったいない」
「うるせぇ。沙希には絶対俺が必要なんだよ」
隣で潤也がクスッと笑ったので、陸は自らの子どもっぽい発言を悔やんだ。しかし次の質問は意外なものだった。
「もしかして、お前も緊張しているのか?」
「はぁ!? なんで?」
大げさに声を上げる。だが潤也のほうは余裕の笑みを浮かべていた。
「少し安心した。会長の前で俺だけガチガチになっているなんて情けないからな」
潤也の嬉しそうな声に、舌打ちしたい気持ちをこらえて、陸はふぅと大きく息を吐いた。