#30 君しかいない

 シャワーの音を聞きながら目覚めた。
 ――うわっ、私、寝ちゃった!?
 時計を見るともうすぐ午前1時だ。眠っていたのはほんの数分らしい。
 起き上がろうとして、驚いた。
 体のあちこちがみしみしと音を立て、やっとのことで上体を起こすと頭がふらふらした。気だるいどころの話ではない。
 でも汗を流したいから、ベッドを降り、バスルームへ向かう。
 ――あれ、そういえば私、何も着ていないぞ。
 浴室のドアの前で、ふと気がつく。
 あんなことをした後でも、明るいところで見られるのは恥ずかしい。自慢できるようなナイスバディならともかく、どちらかといえば全体的に貧弱ですからね、ええ。
 でも考えてみれば優輝からそれを指摘されたことはない。気を遣ってくれているのか、それとも貧弱な女性が好みなのか。
 不意にドアが開いた。優輝は私を見てクスッと笑う。
「入れよ」
「あ……うん」
 遠慮がちに浴室に入ると、優輝はシャワーヘッドをこちらに向け、私の体に湯を当てた。
「洗ってやろうか?」
 彼はニヤニヤしながら腕を伸ばし、私の背中にシャワーの湯をかける。
「いや……」
「遠慮すんなって」
 私にシャワーヘッドを押しつけると、手早くボディソープを泡立て、私の全身を泡で撫で回し始めた。
「ちょっ、やめっ、くすぐったい!」
 身をよじると、持っていたシャワーヘッドが、偶然にも優輝の顔に湯を噴射した。
「未莉……」
「ごめんなさい」
「水かけられるの、2回目だぞ」
 そういえば優輝に保護された最初の晩も、盛大にシャワーの水を彼に浴びせたな、と懐かしく思い出す。
「だって変なことする優輝が悪い」
 言った途端、シャワーヘッドが優輝の手に奪われた。湯を止めるとフックに戻す。
 それから私の頬を両手で優しく包み込んだ。
「本当はもう少しひとり占めしたかったけど」
 ――え? なんのこと?
 優輝は微笑んでいるが、どことなく寂しげだ。
「落ち込む未莉を見ているのはつらい」
「い、いや、おかげさまで仕事のことはすっかり忘れていましたけど……」
 というか、ベッドの上で他のことを考える余裕などなかった。
 ここで改めて思う。
 ――優輝が私のはじめての人!
 しかもあんなに激しくいやらしいことをされて、私も、私も……うわーっ!
 先ほどまでの行為が生々しくよみがえり、全身が急に熱くなる。
 優輝は突然、額がくっつくほど顔を寄せた。
「思い出し笑い?」
「ち、ちがっ! それに私、笑ってなんか……」
 ――ええっ!? ちょっと待って、今、私、笑っている?
 意地悪い笑みを浮かべた優輝が、私の目を覗き込む。
「気がついていないだろうけど、未莉、俺の前でけっこうニヤけているぞ」
「うそ、いつから!?」
「さぁな」
「なんで教えてくれないの!?」
「見間違いかもしれないからな」
「意地悪……っ!」
 非難の言葉は彼の唇に遮られた。優しくて甘いキスに心がとろける。
 優輝の胸の中はいつも温かい。でも肌と肌が直接触れ合うと、普段の数倍、彼を近くに感じられる。
「なぁ、もう1回する?」
 胸がドキッと鳴った。
「無理だよ。明日仕事だし」
「残念だなぁ」
 それでも優輝は恨めしそうな目で妙なアピールをしてくる。その甘えるような表情がちょっとだけかわいい。
 気がつけば、お腹が震えて「ふふふっ」という笑い声が鼻から洩れていた。
「お、笑った」
 私よりもうれしそうにしている優輝の向こうに鏡がある。曇った鏡に手を伸ばし、手のひらで擦ると、照れたように微笑を浮かべる私が映った。
「本当に私、笑っている……」
「な? 俺のおかげだろ?」
 優輝は勝ち誇ったように言って、私をギュッと胸に抱いた。
 目を閉じると、彼とのこれまでの日々が脳裏を駆ける。
「そうだね。ありがとう」
 言葉にしたら急に鼻の奥がツンとして涙がこみ上げてきた。

「いやー未莉ちゃん、いい表情するようになったね」
 西永さんに呼び止められたのは、ドラマの撮影が無事に終了したときだった。
「笑顔が自然になってきた。それに切ない表情にも深みが出てきた。君は目で語れる女優になれるかもしれないね」
 身に余る言葉を並べられ、私はうろたえながらも礼を言った。
「これも西永さんはじめ、皆さんのおかげです。とても勉強になりました」
「未莉ちゃん、彼氏できた?」
「は?」
 西永さんの唐突でぶしつけな質問に、私は生意気にも彼を睨み返した。しかし彼は動じるどころか身を屈め、私の耳元に顔を寄せる。
「大きな声では言えないが、君くらいの女の子は男でずいぶん変わるものだ。男ができたんじゃないか?」
 私は後ずさりした。
「いくら恩人とはいえ、そこまで西永さんにご報告する義務はないですよね」
「ハハハ。そんなに怖い顔をしなくても……」
「西永さん、柴田さんが嫌がっていますよ」
 そこに優輝が割り込んできた。
 西永さんは背筋を伸ばすと、即席の鼻歌で優輝を迎える。
「優輝も感じただろう? 未莉ちゃん、後半で急によくなったって」
「そうですね。でもそれが彼女にセクハラ発言をしてもいい理由になるとは思えませんが」
 相変わらず絶妙なタイミングで現れて、クールな態度でフォローしてくれる守岡優輝。
 ――そろそろ来てくれるんじゃないかと思っていた、なんて口が裂けても言えないけど。
 でも本音は嬉しいし、本当に助かる。西永さんを撃退するのはなかなか骨が折れるのだ。
「未莉ちゃんに変な虫がついたんじゃないか、と気になっただけだよ」
「変な虫とはずいぶん古典的な表現ですね」
 私は下を向いて笑いを噛み殺す。優輝がほんの一瞬、憮然としたのを目撃してしまったからだ。
「でも柴田さんの表情がよくなったのなら、変な虫に感謝しなくてはいけませんよ」
「ん、そうなるか。しかし未莉ちゃんを泣かせたら俺が許さない。困ったことがあればいつでも相談に乗るからね」
 最後は慌てたような早口でお茶を濁し、西永さんは逃げるように私たちから離れていった。
「いつもありがとうございます。助かります」
 優輝に向かって軽く頭を下げた。スタジオ内はスタッフたちの目があるから、あくまでよそよそしくふるまう。
 対する優輝もよそいきの笑顔を私に向けた。
「また一緒にお仕事できる日を楽しみにしています」
 差し出された大きな手に、私の手を重ねた。すると周囲で拍手が起こった。
「制作発表もよろしくお願いします」
 少し離れた場所で、アシスタントディレクターが深々と頭を下げた。

 ドラマの撮影が終わってしまうと、ピンと張った糸がぷつんと切れたような感じはあったものの、雑誌の取材が次々に舞い込んできて、ぼんやりしていられる時間はそれほどなかった。
 優輝は私以上に忙しく、帰りが遅い日も多くなった。
 仕事場が違うと一緒にいられる時間は少ない。それは当たり前のことなのだけど、妙に心もとなくて寂しい。心にぽっかりと穴が開いたような気分だった。
 友広くんのことも時折気になったが、あの日以来何も起こらないまま1ヶ月が過ぎようとしていた。
 不気味ではあるが、気にしていても仕方がない。実際、私ができることといえば、この先私たちの身に災難が降りかからないよう祈るくらいなのだ。
 優輝と過ごす貴重な時間を不穏な話題でつぶしたくはなかった。だから不安がどんなに膨らんでも、私ひとりの心の中に閉じ込めておくしかなかった。
 そんなときに、思いもよらぬ方向から連絡が入った。

 スペシャルドラマの制作発表が翌日に迫った夜、優輝と私はすき焼きを囲んでいた。早めに帰宅できるから、と優輝が高級肉を買ってきてくれたのだ。
 当たり前のことだが、お高い肉は柔らかくて甘い。そして野菜もたくさん食べられる。なんという幸せ。
 それにひとりの夕食ですき焼きを作ろうとは思わないので、すき焼き自体が数年ぶりだった。
「すっげー幸せそうだな」
「ええ、それはもう」
 溶き卵に浸した肉をほおばった瞬間、軽快な電子音が部屋に響いた。優輝のケータイだ。
 彼はケータイを耳に当て、廊下へ向かった。どうやら事務所からの電話らしい。仕事のことかと思っていたら、急に優輝が語気を荒げた。
「僕はたとえ身内であっても絶対に会わないと言いましたよね?」
 そのセリフに胸の内がスッと冷える。
 ――身内? 絶対に会わない!?
 とても嫌な予感がした。と同時に後ろめたくて肉がのどを通らなくなる。
 ――お父上かな。……だといいのだけど。
 私の願望が現実になることをひたすら祈りながら優輝の様子を窺うが、彼は急に黙り込んでしまった。
 背筋に悪寒が走る。
 ――まさか、というかやっぱりあの人!?
 故郷で最後に話をした小柄な女性の名が脳裏に浮かび上がる。山口沙知絵さん。
 ――ど、ど、どうしよう。もしや、彼女が押しかけてきた、とか?
 もし私が律儀に彼女の伝言を伝えていたとしても、きっと優輝は帰省しなかっただろう。それならわざわざ伝えて優輝の機嫌を損ねる必要はないと思ったんだけど……。
「ごめんなさい!」
 通話を終えた瞬間、先手必勝とばかりに私は頭を下げた。
 優輝がフッと笑う。
「なぜ未莉があやまる?」
「だって、沙知絵さんから優輝に伝言を頼まれていたのに、伝えなかったから」
「よく今の会話だけで沙知絵のことだとわかったな」
 その言葉は稲妻のように私の心を直撃した。
 確かに大胆にフライングしたのは私だ。
 しかし優輝が彼女を「沙知絵」と呼び捨てにしたことの衝撃に比べれば、正直どうでもいい話だ。
 ――そりゃ幼馴染ですから、呼び方が変によそよそしくても勘繰りますけど。
 脳内ではいくらでも悪態をつけるが、実際は口を半開きにして茫然とするくらいしかできないわけで。
 そんな情けない私を前にして、優輝は大きなため息をついた。
「悪かったな。余計な気をつかわせて」
「別に……ただ忘れていただけなんで」
「沙知絵から聞いたことは忘れろ」
「だから、忘れていたと言っているでしょ!」
 なぜか怒鳴りだす私。突如、感情が暴走した。頭に血が上り、もはや理性では止められない。
 優輝は驚いたように目を見開き、絶句する。
 それを見た瞬間、ナイフで抉られたように胸が痛み、涙がこみ上げてきた。
 私は勝手に怒り出し、傷ついていた。理由はわかりすぎるほど明白だ。だからなおさら悔しかった。
「私は……高校生のときからずっと……優輝しかいないのに!」
 何を言いだすのだ、私は。
 相手の過去に嫉妬するなんて、まったく意味のないことじゃないか。
「どういう意味?」
 優輝は険しい表情で少し首を傾げた。
 どうもこうもない。
 でも知られたくはなかった。できればずっと隠しておきたかった。
 ――それもここまでか。
 覚悟を決め、大きく息を吸い込んだ。
「高1のとき、優輝と会って少しだけ話をしたでしょ?」
「ああ、車が未莉にぶつかってきて転んだ」
「そう。私はそのときはじめて男の人にドキドキして……それから優輝以外の男の人にそんな気持ちになったことは一度もないの!」
 ついに言ってしまった。
 恥ずかしさと軽い興奮で足元がふわふわする。
 優輝が近づいて来て、私の背中に手をまわした。困ったヤツだな、というように相好を崩す。
「そんなかわいいこと言うと、どうなるかわかってる?」
 至近距離でじっと見つめられ、彼から視線を外すことができない。垂れた目尻に心がくすぐられる。
「わかんない……けど」
 唇がそっと触れ合った。
 その唇が私以外の女性を親しげに呼ぶのは、やっぱり嫌だと思う。
「私は優輝のことが好きだから」
 だから他の女性のほうを向かないで。
 私だけを見ていて。
 彼の腰に腕を回し、ぎゅっとしがみつく。このまま永遠に彼のすべてを私の腕の中に縫い留めておけたらいいのに。
「どうした、急に」
 優輝が笑いながら私の頭を撫でる。
「未莉が不安になるようなことは何もないのに」
 私は頷いた。急に照れくさくなる。
「ただ言いたかっただけなの」
「嬉しいよ。俺も未莉しか好きじゃない。未莉以外ほしくない」
 顎を持ち上げられた瞬間、彼と目が合う。彼の瞳の中に欲望の光が揺らめいた。
「今すぐほしい」
 降ってくるキスを受け止めて、私は彼にすべてを委ねた。

「途中はどうなることかと思ったけど、本当によかったわね」
 スペシャルドラマの制作発表は都内のホテルで行われる。姉と私は早朝からタクシーに乗り込み、会場へと向かっていた。
「うん。これも全部お姉ちゃんのおかげだね」
「あら、彼のおかげでしょ?」
 姉は意味深な笑みを浮かべて私を見た。
 ここまでくると否定するほうが不自然なので渋々認める。
「ま、まぁ、あの人にかなりお世話になったのは間違いない」
「ほら、私がお節介をしてよかったでしょ?」
 それには素直に頷くことができず、私はひそかに顔をしかめた。
「お姉ちゃんはいったいどういうつもりなの?」
「どうもこうも、すべては未莉の夢を叶えるためよ。彼は協力したいと自ら申し出たの。それで、彼は約束を守ってくれたのかしら?」
「約束?」
 そういえば優輝と高木さんの会話の中にも『約束』という単語が出てきたことがあった。確か高木さんが優輝に「約束は守っているだろうな」と詰問していたはず。あれは姉との約束のことだったのか。
「そうよ。未莉が夢を叶えるのを見届けるまでは……」
 姉はそこで一旦言葉を切ると、タクシーの運転手に配慮したのか、私の耳元に顔を寄せた。
「未莉を女にしない」
 小さな声だったが、はっきり聞こえた。
 私は目をぱちぱちさせることしかできない。
 ――それが『約束』!?
「そんなこと、約束しなくたって、何もあるわけないじゃない」
 動揺をひたすら抑え込み、嘘を真実らしく口にする。私は女優だ。これくらい平気でできて当然なのだ。
 姉は不満げに口を尖らせた。
「あら、そうなの? てっきりもう何かあったのかと思っていたわ」
 ――くっ、……言えるわけないし。
 その約束を破るとペナルティがあるのだろうか。気になるけど、気にしすぎると姉にあやしまれるし、つっこまれたら嘘をつき続ける自信がない。私は黙ってこの話題に興味がなくなったふりをした。
 ホテルに到着し、控室で着替えとメイクをする。
 緊張のあまり、のどが乾いて仕方ない。用意してあったお茶を飲み切ると、今度はトイレに行きたくなった。
「大丈夫なの? いくらなんでも水分の取り過ぎよ」
 姉の非難がましい声を背中に受けながら控室を出てトイレに入る。
 この日のために姉が用意してくれたワンピースだ。着崩れしていないか確かめてトイレを出ると、驚いたことにスタッフの名札を首から提げた男性がトイレの前で待っていた。
「柴田未莉さんですね。探しましたよ。もうお時間です」
「え、もうそんな時間ですか?」
 確かまだ時間に余裕があったはず。そう思った途端、腕をつかまれた。
「こちらです。皆さんがお待ちです」
「ちょっと待って……」
 慌てて私の腕をつかむスタッフの顔を確認しようとしたら、背中の一部に皮膚を刺す痛みが走った。ビリビリと耳障りな音とともに、すべての筋肉がねじり上げられるような感覚が全身を支配する。
 ――やられた! スタンガンだ!
「いやっ、たすけ……ぐっ!」
 声を発した瞬間、口を乱暴に押さえられた。
 その間も背中には電気を発するものがあてがわれ、私は意志に反してその場に崩れ落ちた。
「騒がれると困るんだよ」
 その声の向こうから複数の足音が聞こえた。助かった、と希望を抱いたその瞬間、私の視界は黒い布に覆われ、完全に閉ざされてしまった。

 それからしばらく私の身に何が起こったのかはよく覚えていない。
 意識があったような気もするけど、非現実的な色彩に包まれていたから夢かもしれない。
 現実と非現実の境界を移ろっていたのはどれくらいの間なのだろう。
 全身が気だるくて、自力で起き上がることは無理だった。
 なんとなく覚えているのは何かが焦げるような嫌な臭い。そしてその直後、意識が薄れた瞬間のえも言われぬ幸福感――甘い香りが鼻をかすめ、もう何も心配することはないのだ、と大きな温かい腕に抱かれるような感覚。
 途切れ、途切れに意識が現実世界へ浮上する。
 いつからか視界は明るい。体は横たえられ、少し揺れているようだ。
 ――車?
 そう感じた瞬間、ブレーカーが落ちるように意識は遮断される。
 また夢を見る。優輝が私の名前を呼んでいた。答えようとするけど、声が出ない。私は大丈夫。私は大丈夫……だから。
 次第に意識が現実世界に留まれる時間が長くなってきた。
 目をうっすら開けて、状況を把握しようと試みる。
「おや、お目覚めですか?」
 視界に入ってきたのは見覚えのある顔だった。
「友広くん?」
「手荒な真似をしてすみません。でもこうするしかなかったんですよ。あのまま制作発表の会場にいたら、未莉さんは壇上で殺されていた」
 急に意識がはっきりした。視界はくっきりと開け、隣のシートに友広くんが座っているのが見えた。私はほぼフラットに倒されたシートの上に横たわっている。
 私が記者会見で殺されると言い放った友広くんは、薄く笑っているものの、その笑顔にはどこか翳りがあった。
「どこに向かっているの?」
 とりあえず今のところ私は生きている。
 友広くんの言い方だと、彼が私を助けてくれたらしいが、この状況は私にとってまだ安心のできるものではない。
「父の別荘へ」
 その言葉で彼の父親が別荘を持てるほどの人物だとわかる。ならば彼も常軌を逸した行動はとらないだろう、と祈るような気持ちで考えた。
「私をどうするつもり?」
「さぁ、どうしたものか。そのきれいなワンピースを剥いで、その辺の山中に置き去りにするのはどうですか?」
「嫌よ」
 間髪入れずに拒否すると、友広くんは片方の頬だけ持ち上げ、悪意に満ちた暗い笑顔で私を見下ろした。
 これが彼の本性なのか、と怯んだ瞬間、彼は自分のケータイを取り出した。
「これで未莉さんとの卑猥な行為の動画を撮って、それをネタに脅すのも楽しいかもしれないですね」
 ――なっ……! 歪んでる!
 冗談じゃない。今すぐ彼から逃げなくては。
 友広くんに対する嫌悪感と危機感で頭がいっぱいになる。
 腕に力を込めて上体を起こそうとすると、友広くんは小さくため息をついて私の肩を押し戻した。
「無茶しないで。何もしませんよ。犯罪者になりたくないのでね」

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#30 君しかいない * 1st:2016/05/19


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