#29 素直な気持ち

 玄関のドアを開けると明かりがついていて、優輝が私を待ち構えていた。
 前にもこんなことがあったな、と彼の仏頂面を見て思う。仏頂面なら私も負けていないのだが、今はそんな軽口をたたけそうな雰囲気ではない。
 腕を組んだ状態で壁に片方の肩を預けている優輝は、相変わらずついうっとりと眺めたくなるほどかっこよかった。足も太めのチノパンのおかげで骨折しているようには見えない。
 彼は私の様子を十分に観察し終わると、ようやく口を開いた。
「あんなに楽しみにしていた焼肉、全然食べていなかったな」
「そう? お腹いっぱい食べましたけど」
 靴を脱ぎながら答える。やはり見られていたか。
 お腹は空いていたのだけど、友広くんから言われたことを考えていたら、肉がのどを通らなかったのだ。
「何かあった?」
「別に何も。そういえば西永さんは来ていませんでしたね」
「お子さんがこっちに来ていて、今夜は一緒に食事をすると言っていたな」
 ――え!?
「西永さん、結婚しているの?」
「離婚した元奥さんとの間にお子さんがいるんだ。この春から高校生になるらしい」
「へぇ……」
 離婚はものすごく納得できるとしても、あの人にお子さんがいるとは。
 西永さんの年齢からすればなんの不思議もないのだけど、子連れで歩く姿などまったく想像がつかない。もしそれがお嬢さんだったら、ものすごく若い彼女と間違われそうだ。
 優輝は靴を脱いで立ち止まった私の顔を覗き込む。
「顔色が悪い」
「うん、ちょっと言いにくいんだけど、さっき毎月のアレが来ちゃってね」
 私は手に提げていた袋の中身を見せた。紙袋に入れてもらわなかったので生理用品のパッケージが露骨に顔を出す。
 さすがの優輝もぎょっとしたらしく身を引いた。
「そうか。無理するなよ」
「ありがとう。先にシャワー使うね」
 コートを脱ぎながら、内心ひどく安堵する。
 毎月のアレが来たのは本当のことだ。そろそろだと思ってはいたけど、友広くんに会ったことが引き金になったのかもしれない。
 気分も体調も最悪だ。
 でも友広くんの言葉を反芻してみると、確実なことがひとつある。
 現在のターゲットは、優輝ではなく私なのだ。誰かが私をひどい目に遭わせたいと思っている。前回は失敗したけど、次はたぶん失敗しない。
「私がひどい目に遭えばいいんだ」
 シャワーを浴びながら小声でひとりごちた。
 そうすれば犯人は満足するはずだ。そして問題にけりがつく。
 ――優輝と一緒にいることが気に入らないのかな。だとしたら犯人は、私が居候をしていると知っている?
 友広くんには、ばれているかもしれない。
 でも彼が犯人だと断定できる要素は今のところない。だけど何かを知っている。
 ――友広くんは共犯者ってこと? 首謀者はほかにいる?
 姫野明日香の名前を出したとき、友広くんは首を横に振った。
 もし明日香さんではないとしたら、脚本家のサイティさんがあやしいけど……。
 こちらも断定できる要素がない。
 ――優輝に相談したほうがいいんだろうけど、ね。
 シャワーを止めて、ふぅと大きなため息をつく。
 優輝に相談すれば、前回同様、自らを犠牲にしてでも私を守ろうとしてくれるかもしれない。
 ――だけどそれが犯人の気に障っているんじゃないか?
 もし優輝の熱狂的なファンが犯人ならば、私を激しく憎悪するだろう。ただ、それだと以前優輝を脅迫していた理由がうまく説明できないのだけど。
「やっぱりわかんないや」
 私がいくら考えたところで事態が好転することはなさそうだ。
 となると結局何かが起こるのを待つしかない。
「あー、嫌な感じ。もう、なんなの、いったい!」
 大声は出せないので、口の中でぶつぶつ文句を言って、心の中にたちこめた濃い靄を少しだけ吐き出した。

 優輝にあやしまれることなく1週間が過ぎ、撮影も後半戦に入った。
 友広くんの脅しはいったいなんだったのだろう、と首をかしげたくなるほど何も起こらない毎日が過ぎていく。
 ドラマの劇中では優輝が演じる主人公と私が演じるヒロインの距離が急速に近づき、それまで表情の変化が少なかったヒロインに柔らかさが求められるようになっていた。
 スタジオ入りした私に、西永さんが声をかけてきた。
「未莉ちゃん、今日は少し笑顔を出していこうか」
「あ……そ、そうですね」
 そろそろ来ると覚悟していたが、ついにこの時が訪れた。
 ごくりと喉が鳴る。
 それにはまったく気がつかない様子で西永さんが続けた。
「今日、脚本のサイティが見に来ているよ」
 ――え?
 さりげなく視線を巡回させると、セットの脇でディレクターと立ち話をしているサイティさんの姿を発見した。今日は全体的に黄色い衣装だ。明らかに出演者より目立っている。
「サイティさんは西永さんのお知り合いですか?」
 こんなチャンスはめったにない。思い切って質問する。
 西永さんはご機嫌らしくスラスラと答えてくれた。
「ああ、彼女はうちのスタッフだよ。もともと脚本家志望で、ずっと書かせていたんだけど、ようやくドラマ化にこぎ着けたところ。未莉ちゃんと同じで駆け出しさ。あ、同じといえば彼女も昔、モデルをしていたんだ」
 ――サイティさんがモデルの仕事をしていた!?
「それで変装しているんですか?」
「うーん、彼女がいうには脚本家サイティはオリエンタルなイメージらしい。ちょっと変わった子だろ?」
 西永さんは苦笑いした。
 確かにちょっとどころか大いに変わっている。でもこれで竹森さんがサイティさんと同一人物であることはほぼ確定だ。しかも以前はモデルだった。同年代なら私のことを覚えている可能性がある。
 ――私、彼女に恨まれるようなことをしたのかな?
 同じ雑誌で仕事をしたことがあれば多少なりとも記憶に残っているはずだけど、サイティさんには見覚えがない。
 悶々としていると、いつの間にか優輝がそばに来ていた。
「今日は一段と難しい顔をしていますね。これから笑わなきゃいけないのに大丈夫ですか?」
 爽やかな笑顔で嫌味を放つこの男にすぐさま反撃したいけど、悔しいことに全然大丈夫じゃない。
「どうすれば笑えますか?」
 私はやや本気で尋ねた。
 優輝は目を細める。
「うれしかったことを思い出してみたら?」
 おお、意外にも真面目なアドバイス!
 私が目を丸くしていると、優輝は急に眉をひそめた。
「変なことを言ったかな?」
「いえ、守岡さんもうれしいことを思い出して笑顔を作るのかな、と思って」
「ああ、僕は楽しいことを思い浮かべるね。海外旅行とか。撮影の種類で思い浮かべる内容は変えるけど」
「海外旅行……ですか」
「柴田さんは旅行好き?」
 優輝は屈託のない笑顔で訊いてくる。
 私は声のトーンが変わらないように細心の注意を払った。
「海外は両親と一緒にハワイに行ったことがあるだけで……」
 遠い記憶がかすかに呼び起こされるが、10年も前の旅行となると断片的な風景しか出てこない。そういえば写真もこの前の火事でなくなってしまった。時は残酷なもので、私から両親とのつながりをひとつふたつと奪っていく。
 期せずして深いため息が漏れた。
「そっか」
 優輝の声がかすれた。
 まずい。湿っぽくなってしまった。
 何か言い訳しようと口を開きかけたそのとき、西永さんの声がスタジオ内に響いた。
「さぁ、睦(むつみ)ちゃんが部屋に入ってくるところから始めよう」
 睦というのは私の役名だ。
 一瞬だけ優輝と視線を交わし、部屋のセットへ向かう。スタンバイの場所へ一歩近づくごとに緊張が高まっていく。飛び出してきそうな心臓を両手で押さえた。
 大きく息を吸い、顔を上げると、視線の先にサイティさんの姿があった。
 彼女はこれから私が入っていく部屋の中を見ている。その横顔は一見なんの表情も浮かんでいないように思えた。
 だけど西永さんが次々と細かい指示を出し、周囲でスタッフがばたばたと動き回っているにもかかわらず、彼女の視線は少しも動かず一点をじっと見つめている。
 彼女が凝視している対象が優輝だとわかった瞬間、胸の中心を矢で打ち抜かれたような感覚が私を襲った。

 この日は結局笑顔を作ることができず、私の表情がないシーンばかりを撮影して終わった。
 途中で優輝が気を遣って話しかけてくれたけど、気分はどん底まで沈み、曖昧な反応しかできなかった。
「未莉、大丈夫か?」
 私より後に帰宅した優輝が、玄関に入るなり言った。
 彼の顔を見た瞬間、張り詰めていたものが一気に緩む。
「もう泣きそうですよ」
 靴を脱いだ優輝は私の前に来て、自分の胸に私の頭を押し付けた。
「俺のせいだな」
 頭上で後悔をたっぷりと含んだ声がした。
「いいえ、せっかくのアドバイスを私が勝手に……」
「俺の配慮が足りなかったせいだろ?」
「いや……」
 違う、と言おうとしたが、その前にあごを持ち上げられ、唇がふさがれる。
 重ねただけでなく、ついばまれ、舌でこじ開けられた。
 口内を確かめるように彼の舌が私を翻弄する。じれったいその動きは眠っていた私の官能に火をつける。
 足の力が抜けそうになり、慌てて優輝の腕にすがりついた。
 それでもキスは深まるばかりで、しばらくその激しい行為に没頭した。
 先に唇を離したのは優輝だった。
「無事に撮影が終わるまで未莉に触れないほうがいいと思っていたけど、逆効果だったな」
 彼は私の顔を覗き込んでニヤリと笑った。
「そ、そう? でもどうして……」
 疑問を口にしながらも、内心では妙にホッとしていた。優輝が私に何もしない原因が撮影にあるとわかったからだ。
「してほしかったんだろ?」
「……な、何を?」
「それは未莉が一番わかっているはず」
 優輝は私の肩に置いていた手を胸のふくらみへと滑らせた。
 彼が触れている箇所が妙に熱い。期待通り、その手が丸みを愛おしむように動いた。
 暗い雲に覆われていた私の心は、がむしゃらにその手へすがりつく。彼がもたらす刺激を余すところなく感受しようと、他のことを一切遮断し意識を研ぎ澄ました。
 彼の指はほどなく先端を探り当て、強く押し当てながら布地をこする。そのもどかしいような刺激でさえ、私の全身が歓喜で震えた。
 ――ほしい。ほしい。もっとほしい。
 苦しくて、切なくて、息が上がる。
「俺を誘うの、上手くなったな」
 耳元で優輝がささやいた。くすぐったくてのけ反ると、すかさず首筋を彼が食む。
「……やっ」
「でももっと素直になれよ」
 そう言いながら優輝は私の腰に手をまわして、強引に寝室へ導いた。彼は後ろ手でドアを閉める。カーテンが開いたままの寝室は、彼の表情が読み取れる程度のほの暗さだ。
 彼とともにベッドに倒れ込む。着替えやすいようにビッグシャツを選んだのは正解だったのか、すぐさま剥ぎ取られ、下着だけの姿にされた。その下着もほとんど飾りみたいなもので、彼の指は下着の中に滑り込み、ふくらみの先端を直に弄ぶ。
 指の腹で弾いて転がされるうちに、下腹部がじわりと熱くなってくる。
「……んっ!」
 一緒にベッドに横たわっていた優輝が上半身を少しだけ起こして、急に私の鎖骨にキスを落とした。くすぐったいけど耐えられる。油断した次の瞬間、触れられていないふくらみの先端を彼の唇が覆う。
「っあ、あぁ……っ、やぁ」
 生暖かい感触に驚いている間もなく、きつく吸われる。
「……っ、ん!」
「こんなに硬くして悪いコだ」
 悪いのは私じゃない――なんて言い返す余裕はない。
 邪魔だから、と胸にまとわりついていた下着を外された。
 優輝も服を脱ぎすて、上半身だけ裸になった。肩から腕にかけての男性的なラインが特に美しく、これからその腕に抱かれるのだと思うと胸の奥がぎゅっと痛む。
 右足に体重をかけられない優輝は、左側を下にして横たわる。
 私も彼に向き合うように体を横向きにした。
 彼の右手が私の頬にかかる髪をかき上げ、頭を撫でた。
 脳がしびれるような快楽の波は遠ざかっていき、ようやく私もひと息つく。
「安心してる場合じゃないだろ」
 優輝の手が背中に移動する。
「そ……なの?」
「もっともっと感じたいだろ?」
 背中をおりた彼の手は腰へと到達した。スカートの上から撫で上げられると、背筋がざわめく。彼の指が太ももに直接触れるまで、その動作がスカートをめくり上げているのだと気がつかない私は鈍感なのだろうか。それとも彼が手慣れているからなのか。
「柔らかくてきれいな肌だな」
「そ……かな?」
 外側から内ももへ時間をかけて移動すると突然、彼の長い指が閉じた足の間に侵入してきた。
「ひゃ……っ」
 布地の上からとはいえ、秘部に触れられて平気ではいられない。羞恥と恐怖が心の中をいっぱいにしていた。
「やめ……」
 優輝はキスで私の唇をふさいだ。その隙に彼の指が割れ目をなぞる。じれったいような動きが、羞恥と恐怖を別の感情に塗り替えていく。
「ん……ぅ、んんっ!」
 指が往復するうちに他とは明らかに違う強い刺激が走る部分があり、体がびくっと跳ねた。
「ここ、感じる?」
 優輝はそこで小さな円を描いた。
「ん……、ふ……ぁ、や、ぁあ……、あ、あぁ……っ」
「いい声、もっと聞かせて」
「ぃや、恥ずかし……」
「俺しかいないのに、恥ずかしいことなんかないだろ」
 そう言いながら優輝は下着の中に指を滑り込ませた。すぐに私が我慢できない場所を見つけ出し、襞を押し開くと敏感な一点を愛撫し始める。
「あっ、ぁ、あ、あぁ、ん」
 快楽の奔流に押し流され、私は我を忘れた。声を我慢することなどできるはずもない。脳から足の先まで、これまで感じたことのないような刺激が駆けた。
 唐突に彼の指が奥へのびた。
 私はハッと息を呑む。
 卑猥な水の音が聞こえた。
「こんなにあふれている」
「やっ、ちがっ……」
「感じてるくせに」
 それは否定できなかった。唇を噛むと、優輝は目の前でフッと笑い、体を少しだけ起こす。そして胸の蕾を唇で食んだ。
「ひゃ……、ん、ん」
 新たな刺激に私の体はすぐさま反応した。
 すると上目遣いをしながら優輝は濡れそぼる蜜口におずおずと指を侵入させた。
「やっ、ん!」
 異物が入り込む未知の感覚に戸惑った。
「痛い?」
 首を横にふると、彼は安心したように胸の突起を舌で弄び始めた。同時に奥まで挿入した指をゆっくりと戻す。引き抜かれるのかと思っていたら、その指は再度奥へ向かう。
 不思議な感覚をどう受け止めるべきか考えているうちに、突如敏感な襞を撫でられた。電流が駆けたように体が緊張し、腰が浮く。
「ひ……っ、ぁあ、ぁん、やっ、きもち……い……っ」
 彼の指が動くたびにくちゅっと音がして、自分の中から蜜があふれ出すのがわかった。恥ずかしいけれども、それが更に淫らな気持ちを呼び起こす。もっと貪欲に彼の指を、唇を、感じたいと思う。
 快感の波が高みへ昇りつめようとする間際、優輝は非情にも指を抜いた。
「そんな悲しそうな顔するな」
 私が小さく首を横にふると、彼は切なげに目を細めて唇を重ねてきた。
「ここで終わるわけないだろ。もっと気持ちよくしてやるよ」
「え……?」
「後ろ向いて」
 言われるまま彼に背を向けると、後ろから抱きしめられた。全身を包み込まれているような安心感からホッとした次の瞬間、腰のあたりに硬いものがぶつかった。
 ドキッとしたのが伝わったのか、優輝は私の太ももをゆっくりと撫でる。撫でながらその硬いものを私の足の隙間へ挟ませた。
 硬く熱いそれは私の秘部を擦るように動く。敏感な箇所をかすめると下腹部がきゅっと縮む。思わず甘い吐息が漏れた。
「……っ、未莉」
 優輝の声がかすれている。
「もっとこっちに突き出せよ」
 肩越しに彼の顔を確認すると、悩ましい表情で何かを必死でこらえていた。
 また下腹部が疼く。
 おそるおそる腰を反らせた。彼の硬いものが引き抜かれる。フッと気を抜いた直後、蜜がこぼれる場所へそれが突き立てられた。
「ひゃ……ぅっ!」
「痛いか?」
 圧倒的な存在が私の中へ侵入する。その部分が裂けるような気がして、全身の血の気が引いた。低い唸り声が私の口から洩れる。先端だけを埋めた状態で、彼は一旦動きを止めた。
「さすがに狭いな。痛いだろ?」
「だ、いじょうぶ……」
 痛みのせいで体が勝手にこわばってしまう。
「力抜いて」
「でも」
 ゆっくり息を吐く。しかし体は言うことを聞いてくれない。
 優輝は私の緊張をほぐすように太ももを優しく撫でた。
「このままじゃ、これ以上進むのは難しいから……」
「やだ、やめないで!」
 とっさに出た言葉に自分でも驚いた。
 耳元で優輝がクスッと笑う。
「やめるわけないだろ」
 太ももを撫でる指が、両足の合わせ目に前から侵入し、敏感な花の芯を探し出した。先ほどよりも花芯は熱く大きくなったような気がする。
「……っや、んゃ、ぁあ、だめ……っ」
 はしたなくふくれた芯を彼は巧みな指使いでいじめるから、おさまったはずの快感の波が急激に呼び起こされ、私は我を忘れて喘いだ。
「っん、ふぁっ、あぁ、ん、んぁっ」
「ここ、こうやっていじられるの好き?」
「……っ、ん、好き、もっと……もっと、いじっ……て」
「その言葉、ずっと聞きたかった」
 耳たぶを彼の舌が這う。ぞくぞくとした感覚が快楽をさらに高める。
「すげぇ感じてる。濡れて、あふれてきてるのわかる?」
 私は首を横にふった。本当は嫌というほどわかっているのだけど。
 次の瞬間、彼の切っ先がずぶずぶと私の中へ埋められた。
「んんん……っ!」
 一気に奥まで貫かれ、その存在感に息が止まったが、その間も彼の指が私の芯をいじめつづけているせいか、快感と喜びが痛みを凌いだ。
「……くっ、俺もう我慢できない」
 優輝はそう言うなり大きく腰を引き、また彼のものを奥へ突き立てた。脳に火花が散り、下腹部が痛みと愛しさできゅうっと疼く。
 横抱きのまま、私は後ろから幾度も彼に貫かれた。
「はっ、んふっ、ふぁ、んっ」
「……っ、未莉の中、熱くて、狭くて、おかしくなりそ……」
 背後から聞こえてくる荒い息遣いが、なぜだかとても愛おしい。
「ゆう、き……大丈夫?」
「俺より自分の心配しろよ」
 優輝は動きを休み、また私の花芯へと手を伸ばした。心待ちにしていたその刺激に私はあられもない声を上げて答える。
「ひゃぅ……んっ!」
「もっと気持ちよくしてやるから」
「あ、あ、ぁあん、きもちい……ぃ、もっと」
 私の懇願に応じるように彼の指は花芯を少し乱暴に擦り、後ろから彼自身を小刻みに打ちつけた。
 彼の動きが一段と激しくなり、快感の高みを漂う私は彼からもたらせる甘美な刺激を余すところなくしゃぶりつくそうとした。
「っ……は、もう、イくっ……!」
「あああぁぁっ!」
 ほぼ同時に私たちは果てた。
 全身のたかぶりが宙に放り出されたかと思うと、まぶたの奥で弾けて飛散する。
「好きだよ。何より一番、未莉が」
 意識が朦朧とする中、遠くのほうから優輝の声が聞こえた気がした。

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#29 素直な気持ち * 1st:2016/04/18


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