「今日は皆さんにご報告があります」
姉はもったいぶるように会場を見回してからにっこりと笑った。
「このたび当事務所は海外のタレントマネージメント会社と業務提携いたしました。皆さんのより一層の飛躍を力強くサポートしていきますので、互いに切磋琢磨し、世界中を虜にするような目覚ましい活躍を期待しています」
唖然とする聴衆のことなど気にせず、姉は「乾杯!」と自分のグラスを高く掲げた。
私は隣にいる親友の島村柚鈴と真っ先にグラスをぶつけ合う。
「世界進出のこと、未莉は知っていたの?」
「今日はずっと一緒にいたけど、私も今はじめて聞いた」
柚鈴がクッと喉を鳴らして笑う。
「社長らしいね。で、今日のCM撮影はどうだった?」
「まぁ、なんとか。うまくいった、かな」
そうか、そうかと柚鈴は嬉しそうに頷いた。
「で、アイツ大丈夫なの? 入院しているんでしょ?」
――アイツね……。
小さくため息をつくと、柚鈴はまずいことを言ったというように口を手で覆う。
私は慌てて釈明した。
「あ、いや、さっき会ってきたけど、意外に元気だった。もう立てるみたいだし。だけどあれって、ただの事故じゃなかったのかも」
「えっ!?」
声を潜めつつも柚鈴はぎょっとした顔で私を見た。
「狙いはどっち?」
「わかんない」
そう言ってビールを喉に流し込む。
わからないというのは、もやもやして気分が悪い。こういう状況がずっと続けば精神的にかなりのダメージだろう。前に高木さんが優輝の精神状態が不安定だと言っていたけど、今ならそれが少し理解できる。
「犯人は姫野明日香じゃないの?」
柚鈴は周囲を気にしながら小声で言った。
「違う」
「なんで?」
「だってアイツがドラマ降板したこと、抗議されたもん」
「え、未莉に直接文句言ってきたってこと?」
「そう」
「ひぇーーー!」
頬を両手で包み込み大げさに驚いたポーズを取る柚鈴を、近くにいた数人のモデルが注目したが、すぐにそれぞれの会話に戻っていく。
「そりゃ怖いわー。そこまでいくと、恋する乙女なんてかわいいものじゃないね。いろいろ必死なんだろうな。必死すぎてひくわー」
「でも女優デビューできていない無名の私に、そこまで必死になることないのにね」
「未莉にはわからないだろうなー」
柚鈴が私を横目で見る。
え、どういうこと? 柚鈴には明日香さんの気持ちがわかるの?
目をみはる私にニッと笑って見せると柚鈴は腕を組んだ。
「じゃ、犯人は別にいるのか。やっぱり未莉の会社の新人くんがあやしいんじゃない?」
意外な人物が候補にあがった。
「いや、でも、どうやって?」
「それはわかんないけど、こういうのってだいたい『この人はありえない』と思われる人が犯人なんだよ」
柚鈴は人差し指を振りかざして力説した。
「柚鈴、もしかしてミステリーにはまっている?」
「イエス!!」
そ、そっか。そういう見方もあるのか。
考えてみれば、事故発生時、スタジオに友広くんがいなかったという確証はない。実際、現場には多数の人間が出入りしているから、彼が変装して紛れ込んでいても気がつかない可能性は高い。
――でも仕事は? 休んだのかな?
――それに私があの現場に向かうことをどうやって知った?
やっぱり柚鈴の意見はちょっと無理がある気がするけど――念のため、明日会社に行ったらそれとなく確認してみよう。
物思いを振り払うようにグラスを手に取り、一気にビールを飲み干した。
「ただいまーっと。……誰もいないか。ま、いいや」
ひとりごとを言いながらマンションの部屋のドアを開ける。
「あー今日は久しぶりに飲んだなー。もうシャワー浴びて寝よう」
ふらふらと廊下を進む。
「あれ? 私、電気消すの忘れて出かけたかな?」
リビングルームの明かりがついているのを訝しく思うが、それもすぐにどうでもよくなる。
それよりなにより早くふとんの海にダイブしたい。バスルームの前でコートを脱ぎ捨て、ついでに鬱陶しかったストッキングを下ろす。
「いい眺めだな」
突然、背後から聞こえたその声に飛び上がらんばかりに驚いた。
振り返ると、薄く笑みを浮かべた優輝がリビングルームの戸口に立っていた。
「な、な、なんで?」
「退院した」
「うそでしょ!?」
「もう寝ている必要ないし、病院の飯は飽きた」
いやいやいや、だとしても早すぎるでしょ。骨は大丈夫なの、骨は!
スカートの裾を何度も下に引っ張る。ばっちり下着を見られた後に、こんなことしても意味ないとわかっているんだけどね。
「とりあえず脱げば? シャワー浴びるんだろ?」
目を細めた優輝が極上の笑みを私に向ける。
「あ、うん」
「手伝ってやろうか?」
「いいです。大丈夫です。自分で脱げます」
私は自分の腕で体を抱きしめながらバスルームに後ずさりした。
だけど気がつけば、目の前に優輝がいる。松葉杖での移動ってこんなに素早くできるものなの?
「逃げんなよ」
「そういうわけじゃ……」
もう逃げ場がない。腕をつかまれたと思った次の瞬間、私は優輝の胸の中にいた。
Tシャツに額をくっつける。寄りかかることはできないけど、彼の体温を十分感じられる距離だ。
こういうときどうすればいいのかわからない。
ドキドキして胸が破裂しそうで。
今なら死んでもいいくらい幸せな気分で。
こんな瞬間は誰にも渡したくない、と思う。
だけど腰に手を回すのは大胆な気がするので、Tシャツの裾をつかんでみた。これで精一杯だけど、本当は全然物足りない。
私、今、ちょっと、おかしくなっているかも。酔っているせい?
「あいつに何か言われたって?」
優輝の手が私の頭を撫でる。大事なものに触れるような優しい手つきのせいで、今にも心がとろとろに溶けだしそうだ。
「別に、たいしたことないから、気にしないで」
心配してくれるのはうれしいけど、こんなときに姫野明日香の名前は口にしたくない。話を切り上げるようにそっけなく返事をする。
優輝は私の髪を掬い取り、フッと笑った。それからまた頭を撫で始める。ゆっくりと髪を滑り落ちる大きな手。あまりにも心地よくて、このときが永遠に続けばいいと思った。
だが、いつしか彼の手は背中を往復するようになり、その手が急にシャツを引っ張り上げたから私は「ひゃあ」と声を上げる。
捲り上げたシャツの裾から彼の指が入り込み、素肌の上を滑るように移動した。
「ちょっ……、なんで」
「服脱ぐんだろ? 脱がしてやるよ」
「や……っ」
触れるか触れないかの微妙な指の刺激に、背中がぞくっと粟立った。同時に腰の奥が熱く疼いて、思わず身を捩る。
「……これって、脱ぐっていうか……、ん……」
頭を撫でられているときはこれ以上ないくらい心が安らいだのに、同じリズムで背中をたどる指はどうしてこんなに背徳的なの?
「脱ぎたい?」
意地悪な笑みを浮かべた優輝が私の頭上で囁いた。
「い、いや……」
「じゃあ、どうしてほしい?」
すべてを見透かしたような彼の口調。くやしいことに「やめて」とも「やめないで」とも言えない。
くすぐったいというほどでもなく、心地よいくせに心が波立つようなもどかしい刺激。次第にその手つきが煽情的になるのを、むしろ期待してしまう私。
吐息が切なく甘く濡れる。
ただ背中を撫でられているだけなのに――。
「感じるんだろ?」
優輝の胸に額を押しつけ、弱々しく首を横に振った。
「じゃあ、ここは?」
彼の指がいきなり下着の内側に忍び込む。脇の下からするりと隙間に侵入し、ふくらみの先端を指の腹で弾いた。
電気が駆け抜けたような衝撃が私の身体を貫く。声にならない声が漏れた。
少し遠ざかったかと思いきや、彼の指は再びふくらみの頂へと戻り、今度は円を描くように執拗に捏ね回し始めた。
「ん……っ」
「こんなに硬くして、いけないコだな」
「ちがっ……んぅ」
優輝が耳元でフッと笑う。その吐息に反応して身震いすると、急に彼の指が私から離れた。
「シャワー浴びたら?」
「あ、うん」
私は顔を上げて優輝をまじまじと見つめた。突然繋がれていたロープを放たれて、沖に流される小舟になったような気分だった。居心地が悪くなり、慌てて彼のTシャツから手を離す。
脇に挟んでいた松葉杖を握り直し、優輝はリビングルームへ戻る。
しばらく茫然とその場に立ちつくしていたが、身体の火照りはすぐにおさまりそうにない。私だけ熱くなっていたことが猛烈に恥ずかしかった。急いで服を脱ぎ、バスルームのドアを開けた。
シャワーを浴びてさっぱりすると気分も落ち着いた。
考えてみれば、あの体勢で続きを期待するほうがどうかしている。まだ負傷した足には加重できない。優輝はきっと無理していたのだ。
じゃあ変なことしなければいいのに。
そう思いながら水を飲みにキッチンへ向かう。
リビングルームでは難しい顔をした優輝が書類に目を通していた。私に気がつくと「見る?」と手にした紙をひらひらさせる。
「見てもいいの?」
「もちろん」
私はコップに水を満たし、ソファの向かい側に座った。すかさず優輝が傍らのクッションを差し出した。床にじかに座って冷えるのを心配してくれたのだろうか。些細なことだけど、優しさがじんと心にしみる。
「本当に覚悟はあるのか?」
ローテーブルの上に書類を無造作に放ると、優輝は私に鋭い視線を投げかけた。
バラバラにテーブル上に広がったコピー用紙をそろえて手に取る。
――おや?
「これ、スペシャルドラマの企画書?」
「そう。足が不自由な主人公の相手役は、過去の事件で心に傷を負い、それ以来無愛想にふるまう女性だ」
「……えっ」
私は思わず大声で聞き返した。
優輝がシニカルな笑みを浮かべて腕を組む。
「よくある設定だろ」
――いや、そうか?
何かが引っかかった。
「それでも無理に明るくふるまうけなげな女性というのが、割とよくある設定では?」
「さすが未莉。俺も同感」
おー正解だった。褒められて嬉しくなる単純な私。
「でも無愛想な役なら私にピッタリかも」
なんて浮かれた途端、優輝が冷たい目をして小さくため息をつく。
「だから、おかしいと思わないか?」
「どういうこと?」
「この役は辞退したほうがいい」
「なによ、それ。勝手なこと言わないでよ」
あまりにも一方的な命令に、私は語気を荒げた。
「未莉はバカだ」
優輝も引く気はないらしい。冷静であるがゆえに、彼の短い言葉には侮蔑の色が濃く感じられた。
なによ、そっちだって、さっきまで私に変なことしていたくせに。急に落ち着き払っちゃって、ホント私だけバカみたい。恋愛経験の少ない私をもてあそぶのがそんなに楽しい?
無性に腹が立つ。
「優輝にはわからないでしょうけど、私にはこんなチャンスもう二度とないかもしれないのよ!」
「罠だと知っていても?」
――罠……!?
私は目を見開いたまま固まった。
松葉杖を手に取ると優輝は難なくソファから立ち上がり、リビングルームを出ていこうとした。
「これって罠なの?」
慌てて彼の背中に疑問をぶつけた。
振り返った優輝が「さぁ?」と首を傾げる。
「そうじゃなくても俺と一緒に仕事をするなら、外では完璧に他人のふりをしてもらわないと困る」
「あ……」
そっか。優輝は私と同居していることがバレると困るんだ。
「ですよね。困りますよね」
妙に自虐的な気分が私を支配する。「完璧に他人のふり」――か。
優輝は「寝る」と短くつぶやくと寝室へ消えた。
広いベッドに先客がいる。この光景は久しぶりだ、と感慨深く思う。
仰向けで眠っている優輝の顔は少し幼く見えた。暗がりだからなおさらかもしれないけど。
――きれいな顔。
目を閉じている間はずっと見つめていても大丈夫。誰にも咎められることはない。
私はシーツとふとんの間に足を滑り込ませ、体を横たえるまでしばらく彼の寝顔を鑑賞していた。
そう、その形のよい唇が突然動くまで。
「寝ないの?」
私は驚きのあまりシーツの上で跳ねた。
「起きていたの!?」
寝たふりをしていた優輝は、私の腕をつかむと自分のほうへ思い切り引っ張る。私はされるがままに彼の胸の中へ倒れ込んだ。
「あの、重くないですか?」
「重い」
と言いながら優輝は私の首に腕を回し、きつく抑えつけるので避けることもできない。
「未莉」
甘ったるいような優しい声が至近距離で発せられた。
「俺に隠していること、あるだろ?」
途端に全身が硬直する。
――な、なんのことだろう? 優輝の実家に行ったことがバレた? もしかしてお姉ちゃん!?
私は頭をフル回転させ、戦闘態勢に入る。
「えっと、なんのことでしょう?」
「事務所に変なメールが届いた。俺の父親を名乗るヤツから『お前の部屋のポスターのお嬢さんが我が家にお見えになりました。彼女と話をしましたよ。とても感じのいいかわいいお嬢さんでした。どうだ、うらやましいだろう』だそうな」
――うっ、それは正真正銘、優輝のお父上からのメールではありませぬか?
どう返事をしたらよいものか。
というか、お父上、「どうだ、うらやましいだろう」って……。
身を固くしたまま、しばらく瞬きを繰り返す。
これは非常にヤバい展開だ。
だけど私は姉の言葉どおりに本屋さんに行っただけ。見事ドッキリに騙されたんです。私、悪くない!
「未莉」
「はい?」
「何か言えよ」
優輝の腕がさらに私の後頭部を圧迫するから、頬が彼の胸に押しつけられて苦しいくらいだ。優輝のぬくもりと鼓動を直に感じられるこの状態で嘘をつくのはとても難しい。
でも私にお父上のメールの内容を暴露したということは、あの部屋のポスターの存在を認めるの?
――ええい、ダメもとで訊いてしまえ。
「その……お嬢さんは誰のことなんでしょうね」
「もしメールが悪戯でなければ、俺の実家に行ったヤツがいるんだろうな。とても感じがよくて、かわいいお嬢さんらしい」
最後のほうは嫌味がたっぷりこもっていたが、私は素知らぬ顔をする。
「うらやましいですか?」
「別に」
――あーそうですか。
心の中で盛大に悪態をつきながら、目を閉じた。
突然、頭にポンと大きな手がのる。
「気がつくのが遅いんだよ」
怒ったような声で優輝が私の頭をぐりぐりと押した。
「痛いってば」
ようやく拘束が解かれたので首を上げて優輝の顔を睨んだ。
――過去のことを教えてくれなかったのはそっちじゃないか!
しかし彼は涼しい目で私を眺めている。
「オーディションの日も、いつ俺に気がつくのかとずっと期待していたのに、気がつくどころか最後はぶちキレて出ていくし」
「仕方ないでしょ。ものすごく緊張していたし、笑顔なんか私には無理だし、そもそも守岡優輝はテレビの中の人だと思い込んでいたんだから!」
「へぇ。じゃあ、あれは俺に見とれていたのか」
勝ち誇ったように優輝が顎を上げる。
否定したいけど、悔しいことに彼の言うとおりなのだ。確かに私は優輝ばかりを目で追っていた。
「仕方ないでしょ。……カッコよすぎるんだもの」
言っているうちに恥ずかしくなってきて、また優輝の胸の上に着地する。
「それに眼鏡かけていないし」
優輝は返事の代わりにクスッと笑い、私の頭を撫でた。
ずっと私のことを知っていたのに、どうしてそのことを黙っていたのだろう。私が覚えていなかったら、昔のことはなかったことにするつもりだったの?
変な人……。
でも逆の立場だったら、私もやっぱり言えないかもしれない。相手も覚えているとは限らないし、冷たくされたら悲しいし。
それにしても――
「医学部にいた人がどうして俳優になっちゃったの?」
「そんなことまで聞いたのか。でもそんなこと、気にしてどうする?」
「だって姉にそそのかされて俳優になったのなら、なんだか申し訳ない、と思って」
優輝は指に私の髪をくるくると絡め、フッと笑った。
「俺に興味あるんだな」
「い、いや……その」
「キスしてよ」
「えっ!?」
な、な、なんで?
首だけ起こして優輝の顔を見る。
「俺、起き上がるの大変なんだけど」
いや、それはわかりますよ。確かにあなたの上に乗っかっている私が、少し移動してキスすれば――キスすれば――キス!!
一応腕を突っ張って上半身を起こしてみる。
「あの、でもなんで突然?」
「俺のこと、好きだろ?」
い、いや、えっ、でも――だからってキス!?
好きだとキスしないといけないのだろうか。いやそんなはずはない。
それに私、もう少し聞きたいことがあるんだけど!
反論しようと口を開きかけたが、先手を打ったのは優輝だった。
「上手にキスできたら、スペシャルドラマ、俺からも未莉を相手役に推してやるよ」
くぅっ!!
そんなこと言われたら、できないとは言えなくなる。
「ほら」
優輝は私の二の腕をつかんで引っ張った。
互いの顔が急接近する。私は目を見開いたまま優輝の鼻先で固まった。
――もしスペシャルドラマで共演してしまったら、優輝に沙知絵さんの言葉を伝えなければならない……。
優輝の幼馴染、沙知絵さんの小柄な容姿を思い出すと、なぜか胸がキリキリと痛み、急に焦燥感がこみ上げてきた。
ぎゅっと目を閉じ、四つん這いになった。羞恥心をこらえて少しずつ唇を近づける。
ギリギリまでくると恥ずかしい気持ちは消え去り、押さえきれないほど胸が高鳴る。
そっと唇が触れ合った。
神聖な口づけはほんの数秒だけで、どちらともなくむさぼるようにキスを重ねた。
そのうち優輝の指が私の胸をかすめる。パジャマの上からとはいえ、四つん這いの体勢だから、先端を探り当てるのは容易だった。彼は指の動きを次第に早め、尖っている部分を執拗に攻めた。
口づけの合間に甘い吐息が漏れる。
頭の芯がしびれるような感覚と同時に、腰の奥に不埒な熱が呼び覚まされた。
目を閉じていると優輝に触れられている部分だけに意識が集中する。彼の指の動きが生み出す淫らな喜び。それが徐々に高まっていく。
「未莉がかわいいから許す」
息も絶え絶えな私を胸に抱いて、優輝は静かに言った。
「……許すって、何を?」
「実家の俺の部屋に無断で入ったこと」
「あ……ありがとうございます」
のぼせ上がった身体の熱が一気に冷めていく。
もしかして今の辱めはおしおきだったの?
まぁ、言葉で責められなくて助かったかな。――いや、ちょっと待て、私。それだと言葉責めより、身体に直接辱めを受けるほうがいいと感じたみたいじゃない?
そんなわけない。断じてそんなわけがない!
でもさっきみたいな行為が怖いわけでもないし、嫌なわけでもない。だから「やめて」とは言えなくなっている。これはまだ酔いが残っているせい?
それにしても優輝の胸が温かい。気だるいのにこの上なく幸せな気分で満たされる。
――ずっとずっとこうしていられたらいいのに。
儚い願いとは知りつつも、私はすがるように目を閉じた。